(10)

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俺と啓介は、廊下の向かいの小さな部屋に閉じ込められた。部屋の中には、なんの家具もなかった。
まず窓を調べた。窓は簡単に開いたが、地面までは四メートルほどありそうだ。途中の壁にはなんの手掛かりもない。俺一人なら飛び降りることが出来るだろうが、いまは啓介が一緒だ。
今度は、ドアのところに行った。鍵は握りにシリンダー錠が組込まれた形式だった。ドア枠はアルミ製のちゃちなものだったので、体当たりすれば壊せそうだ。――もっとも、その音で男たちに気づかれてしまうだろうが。
「やっぱり分かってくれたんだ」
啓介がぬいぐるみの腹から、万能ナイフを取り出しながら言った。そのナイフは、啓介が山にキャンプに行くとき、俺がプレゼントしたものだった。その時は、子供にはまだあぶないからと言って、佳代が取り上げていた。
「ああ、おまえが言ってることは分かったけど、そんなちっぽけなもので、一体何ができるんだね?」
啓介は肩をすくめた。
「何かの役に立つのじゃないかと思って。ドアの鍵が開けられないかな?」
「あとで試してみる。ところであいつらは、どうやっておまえを連れ出したのだ?」
「夕方、太田先生が家に来たの。あ、もうお医者さんじゃなかったっけ。それで、太田さんとお話していると、あいつらがやってきたんだ」
「近所の人は気づかなかったのかい?」
「わかんない。騒ぐと殺すってピストルを突き付けられた。黒光りして──あれはぜったい本物だよ」
啓介は両腕をさすって、身震いした。そこで彼は息を呑んだ。
「大変!」
「どうしたんだ?」
「太田さん!太田さんは、どこに連れて行かれたんだろう?」
俺は無表情を装った。太田が死んだということは、まだ話さないほうがいい。
啓介は心配そうにつづけた。
「最初に家に来たのは、二人の男だったけど、ひとりが電話したあと、もう二人、男がやってきたんだ。それで太田さんは2階に連れて行かれて、僕のほうは──」

そのときだった。別の部屋から、妙子の悲鳴が聞こえてきた。
彼女は男たちをなじり、わめき散らしていた。それに男たちの下卑た笑い声が交じった。しばらくして、ふいに彼女の声が聞こえなくなった。男の囃し立てる声がした。
建物の中が急に静かになった。
その静寂の中で、彼らがいる部屋の中で行なわれている光景を想像して、俺はヘドが出るほど気持ちが悪くなった。
啓介のほうを見ると、彼は震えていた。ジャンパーを脱いで、息子の肩にかけてやった。抱き寄せて、安心させるように背中を撫でてやった。
今は何もできない。行動を起こすのは、男たちが寝てからだ。
俺は腕時計を見た。驚いたことに、まだ10時半過ぎだった。ここにきてから、1時間も経っていないのだ。
俺は息子にささやいた。
「いいか、啓介。真夜中の2時ごろに、ここから逃げ出す。それまで、あと3時間半ある。寒さで眠れないかも知れんが、できるだけ休んで、体力を蓄えておくんだ」
「それまでに、凍え死にしなければね」
啓介がそっと言って、気丈に微笑んだ。たしかに室内は寒かった。それも、夜が更けてくるにつれ、ますます寒さが厳しくなっていた。
膝の古傷がシクシクと痛んだ。男に蹴られた側頭部に手をやると、血がこびりついて、髪の毛がこわばっていた。
Pタイルの床に横たわり、腕枕に啓介の体を抱いてやりながら、体力を温存した。ときおり、妙子の喘ぎ声や、男たちの卑わいなうめき声がかすかに聞こえてきたが、その声を極力無視した。

俺は寝そべって、先ほどの梶山との会話を、一言一句、思い出そうとした。
(二人の警官が調べたそうだな?)
(メモや写真のことを話したのは、篠田のほかに誰だ?)
(ほかに、なにか残していなかったか?)
(書類とかは、なかったか?)
(金は?)
俺は、義父の身を案じたが、今はどうしょうもなかった。それにしても梶山は、メモと写真について、義父の名前を出したが太田の名前は出さなかった。それに彼は、警官が俺の家で調べ回ったのを知っていた。
最初の疑問はすぐに解けた。残酷な拷問を受けながら、太田は死ぬまで口を割らなかったのだ。
俺は、太田の豪胆な精神に感嘆するとともに、空しい喪失感も覚えていた。老人のどことなく人を食ったとぼけた表情が、瞼に浮かんだ。それとともに、梶山に対する憎しみが、ふたたびこみあげてきた。
太田の死については、怖がらせたくないため啓介には話していないが、いずれは知ることになるだろう。そのとき受けるであろう、息子のショックが怖かった。

梶原が知っていた警察の情報については、今もって謎だった。
あのとき普通なら、警官たちが何を見つけたか聞くはずなのに、梶山は、何も見つからなかったことを知っているようだ。
そういえば、梶山の家に連れて行かれたときも言っていた――俺が池上警視に会っているのを知っ
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