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次の日からランニングを始めた。
朝6時に起きて、家から外人墓地まで往復40分かけて走り、夜も同じコースを走った。冬が近づいて、冷気に右膝の古傷がうずいたが、かまわずに走りつづけた。
息子の啓介は最初のうち、そんな俺を、3日と続かないと言って冷たい目で見ていたが、トレーニングが1週間続いたころ、少し考えを変えたようだ。
その証拠に、自分からすすんで食事準備の手伝いをしだし、部屋の掃除や洗濯もするようになった。
しかし、4年間の堕落した生活の蓄積は、そう簡単には解消できなかった。腕立て伏せや腹筋運動では、いやというほどそれを思い知らされた。現役時代に出来たことの半分もできなかった。それに、走っていてもすぐに息切れがした。
それでもトレーニングを続けることで、体調がじょじょに良くなってきたのも事実だ。
俺は会社に対して、一ヶ月間の長期休暇を申請した。上司は不満そうだったが、俺の家族に起こった不幸を考慮して、結局はしぶしぶと許可を下ろしてくれた。

日中は、佳代が絵の裏に隠していた写真を持って、栗田の働いていた浜銀行を中心に、街中を歩きまわった。
ひょっとして、写真の女に出くわすかも知れないと思ったからだ。今や写真を見なくても、女の容姿は脳裏に焼きついていた。
一方の梶山という人物は、探しようがなかった。市内の電話帳だけでも、梶山という姓は何十人といる。それに梶山が男なのか女なのか、それさえも分からない。
もう一度、金庫の中や箪笥を徹底的に調べたが、佳代の残した手がかりは見つからなかった。
俺は、メモと写真のことを池上警視に話して、協力を求めようかとも考えたが、迷った末に思いとどまった。一般人がにわか探偵のようなことをやるのを、警察が黙って見逃すはずがない。
その後、池上は相棒を伴って2度ほど俺の家に来たが、たいした会話はなかった。栗田の横領に関係する質問と、二人の死にかかわる俺自身の疑惑をうかがうような質問だった。
池上の話しぶりでは、横領事件の糸口は、たいして進展していないようだ。俺は、佳代が隠していたメモや写真、それに彼女が俺あてに出していた手紙のことは、いっさい口にしなかった。俺の心境は、おそらく池上に対する反発心のほうが強かったのだろう。

ある日偶然のことに、写真の女を見つけた。
昼下がりの中華街を歩いているときだった。その女は中華飯店から出てきた。遠目にも、写真の女だとすぐに分かった。今は淡いピンクのワンピースを着ている。恰幅のいい年配の男が一緒だった。
女は身長170センチくらい、連れの男より背が高かった。ほっそりとしたウエストが、バストとヒップの豊かな膨らみを引き立たせていた。思わず見とれてしまうほどの、素晴らしいプロポーションだ。
男のほうは、高価そうなダークスーツを着て、年の頃、60代、短く整髪した髪は白いものが目立った。人に命令することに慣れきった、尊大な顔と態度だ。

俺は、二人のあとをつけだした。
二人は大通りに出ると、待たせていた黒塗りのベンツに乗り込んだ。俺はあわてて、通りかかったタクシーを停めた。タクシーに乗り込むと、運転手にベンツのあとについて走るよう指示した。
ベンツは横浜スタジアムの近くにある、こぢんまりとしたマンションの前で停まった。赤いレンガタイル張りの、いかにも高級そうなマンションだ。
俺は意識してゆっくりとした動作で、車の料金を払いながら、二人がマンションの中に入っていくのを横目で見ていた。
タクシーが走り去ると、ぶらぶらとマンションの玄関口に向かった。ガラスドア越しに、二人がエレベーターに乗り込むのが見えた。
玄関ドアはオートロックが掛かって、閉まっていた。しばらく玄関の前で、人を待っている風情でうろついた。俺のところから、エレベーターの表示灯が上に向かって点滅するのが見えた。見ているあいだに最上階のランプが点灯し、そして動かなくなった。
俺は引き返した。二人の乗ってきたベンツは、まだ車寄せにあった。運転席にごつい体格をした男が乗っていた。二人きりになるのは絶対遠慮したいような、いかつい人相をしている。運転手がいるということは、二人はまたマンションから戻ってくるということだろう。

俺はベンツから見えないところまで歩くと、空いた電話ボックスに入った。車が必要だった。福井に聞いた個人タクシーの電話番号を押すと、すぐに福井が電話に出た。幸いにも彼は空車中だった。
俺は所在地を告げて、すぐに来るように伝えた。
福井のタクシーは十五分後に来た。その間、マンションに入った二人は、まだ出てこなかった。
用件を伝えると、福井は難色をしめした。彼は理由を聞きたがったが、俺は話すのを拒否した。それでも福井はしぶしぶと、俺の言うとおりに従った。
マンションの玄関が見通せる場所に車を停めて、俺たち
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