(7)
昼過ぎに会社から電話があった。俺あての郵便物がたまっているが、自宅に郵送しようかと女子社員が言った。俺は、夕方までに取りに行く、と返事をした。ひとりきりで家にいるのが、鬱陶しくなってきたのだ。
会社の連中は通り一遍のおくやみを言い、慰めてくれたが、俺は複雑な心境だった。
彼らは、俺の女房が、尋常でない死に方をしたのは知っている。そのことに触れぬように気を使っているのだが、俺にとっては鬱陶しいだけだった。
郵便物を受け取ると、そうそうに会社を出た。またぞろアルコールへの渇望に苦しんだ。しかし、その誘惑を断ち切って、まっすぐ自宅に戻った。
啓介は家にいなかった。子供部屋をのぞくと、鞄が学習机の脇に置かれている。いちど家に戻って、遊びにでかけたようだ。
それにしても遅かった。もう夕方の7時を過ぎていた。義父母の家に電話をしたが、啓介は来ていないと言う。
俺は不安な気持ちを押さえて、食事を作りだした。
8時を過ぎても、啓介は戻ってこなかった。俺の不安は募った。
こんなとき、いかに自分が息子の生活から、疎遠になっていたかを思い知らされた。心当たりを探そうとしても、なにひとつ思い浮かばないのだ。
悪い予感が頭に浮かんだ。ふと、池上警視に電話をしてみようかと思った。番号を途中までかけて、思いとどまった。
外に出て、息子を探そうかとも思ったが、その間に息子から電話があるかも知れない、と思ってやめた。第一、どこを探していいか俺には分からなかった。
啓介は9時近くになって、家に戻ってきた。
「こんなに遅くまで、どこに行っていたんだ!」
安堵と怒りに、俺は息子を怒鳴りつけた。
「友達と遊園地に行ってた」
啓介はブスッとして言うと、階段のほうに向かった。
「待て!どうして父さんに、連絡しなかったんだ!」
俺は息子の前に立ち塞がって、大声を上げた。
啓介は平然と俺の顔を見上げた。
「どうせまた、遅く帰ってくると思ったからだよ」
俺は一瞬、言葉に詰まった。
「──それにしても、子供がこんなに遅くまで遊ぶもんじゃない。お前は、夜の恐さを知らないんだ」
「大丈夫、友達といっしょだもん。それにボクはもう、子供じゃないよ」
「父さんから見れば、12歳はまだ子供だ。いいか、これからは暗くなる前に帰ってこい」
「勝手なこと言わないでよ!」
不意に息子が爆発した。彼は涙を浮かべて叫んだ。「お父さんだって、毎晩酔っ払って、遅くまでほっつき歩いてたじゃないか!お母さんと僕が、どれほど心配していたと思っているんだ!」
啓介は俺の脇をすりぬけると、階段を駆け上がった。
後に残された俺は、呆然として突っ立っていた。最も痛いところをつかれたのだ。過去のあやまちは、どうあがこうと償いようがなかった。
俺は自分の部屋に入ったが、落ち着かなかった。ついに革ジャンパーを羽織ると、あてもなく家を出た。
何軒ハシゴをしたか、記憶になかった。どの店で飲んでいても、落ち着かなかった。浴びるように酒をのみ、また他の店に向かった。
次の店を求めて夜の通りをふらついていると、通りすがりの若い男と体がぶつかった。俺はそれに気づかないほど酔っていた。
「おい、おっさん、待てよ!」
鋭い怒鳴り声に、振り返った。二人連れの男だった。チンピラヤクザ風の風体をしている。
「失せやがれ」
もつれた声で言うと、俺は立ち去ろうとした。
男が殴りかかってきた。ふいをつかれて、俺はよろめいた。かろうじて踏み止まり、若い男の顔を殴り返した。男がうめいて、のけぞった。
そのとき、もうひとりの男が、横から体当たりをかけてきた。俺はよろめき、縁石につまずいて倒れた。男たちは倒れた俺を、二人掛かりで蹴りだした。腹といわず背中といわず、男たちの靴先が容赦なく襲ってきた。
俺は成す術もなく、男たちに蹴られつづけた。せいぜい出来たことといえば、体を丸めて急所を攻撃されるのを防いだくらいだ。
「いいか、おっさん。舐めたまねをするんじゃねえぞ」
最後のひと蹴りをくれると、男たちは立ち去った。
俺は朦朧とした意識の中で、歩道脇の手摺にしがみつき、立ち上がろうとした。
誰かが俺の名前を呼んでいた。やがて暗黒の靄が包み込んだ。
気がついたときは、見慣れぬ部屋の中だった。起き上がろうとした途端、背中にズキリと鋭い痛みが走って、思わずうめき声をあげた。
全身が疼きだした。まるで針の山を転がっているようだった。
俺は苦痛を和らげようとして、目をきつく閉じた。
「気がつきましたか?」
おっとりとした声が聞こえた。どこかで聞いたことのある声だった。
目を開くと、前にホモバーで会った、福井とかいう個人タクシーの運転手だった。
「タクシーを流していたら、あなたが歩道の手摺に寄りかかって、朦朧としている姿が目に入ったのです。びっくりしましたよ。喧
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