第八話 公園のお爺ちゃん
「カエデの葉も色づいてきたね」
「ああ、まさに豊穣の秋だな。大自然がこれだけ色彩豊かだと、人間さまも色気づかないわけにはいかないな」
「また、そんなことを――ダイちゃんがそんなことを言うから、町内会長や水原先生が色気づいてくるんだ。きのうも先生から電話があったよ」
「先生から?おれはいつも、いないと言ってくれ。一度味わえば充分だ。年下はどうも、情が湧かない」
大輔の仕事が休みの日、朝食のあと二人は仲良く連れたって、秋色に染まる公園を散歩していた。足腰が弱くなってきたのを痛感した昌平が、大輔を誘ったのだ。
池に面した広場に、差しかかった時だった。大輔が突然立ち止まって、つぶやいた。
「爺ちゃん――」
昌平は、大輔の視線の先を追った。池の端にベンチがあって、ひとりの老人が腰かけていた。大輔はその老人を見ている。
「ダイちゃん、知っている人かい?」
「いや、死んだ爺さんに似ているものだから、つい錯覚した――」
大輔は話の途中で、老人のほうに歩み寄った。
「お早う、お爺ちゃん」
声をかけられた老人は、ぼんやりと大輔の顔を見上げた。
思わず仏さまを思い浮かべるほど、品のある穏やかな顔だった。薄い眉毛の下、金縁めがねの奥で、深い二重まぶたの小さな瞳が、優しそうに輝いている。色白の頬は艶々として、形の良い鼻と口は、そこはかとない気品と色気を滲ませている。
老人は、柔らかく丸みを帯びた体に、茶色のカーディガンを着て、すっかり薄くなった頭髪の様子から、年の頃八十歳前後と思われる。
「朝から元気だねえ」
大輔が再度声をかけると、老人がポツリと言った。
「アパートを追い出されちまってね」
「ええっ、アパートを追い出されたって――婆さんと喧嘩でもしたのかい」
「いいや、不動産屋に追い出された。家賃を払わなくてな」
深刻な内容にも関わらず、老人はのんびりと言うと、大輔に微笑みかけた。人を疑うことを知らないような、無邪気な笑顔だった。
大輔は老人の横に腰掛けて、あれこれと事情を聴き始めた。その横では昌平が、余計なお節介はよせよ、という顔で突っ立っている。
老人の話を要約すると――八十一歳で独り住まい、手違いで家賃を二カ月分滞納したところ、アパートを追い出された。家にあった家財道具も、勝手に処分された。身寄りは郷里の函館にいる姉しかいない――といったところだ。
「家財道具を処分されたって、荷物はそれだけかい?」
老人の横にぽつんと置かれたボストンバッグを見て、大輔が訊いた。
「ああ、これだけだ。結構便利だぞ、枕代わりにもなる」
「ええっ!お爺ちゃん、ここで寝たの?こんなに寒くなった季節に――」
驚く大輔の横から割り込んで、昌平が言った。
「ダイちゃん、警察に連れて行こうよ」
その途端、老人が激しく反応した。
「警察はだめだ!警察は――きらいだ」
大輔は困って、老人の顔を見た。
昌平のほうは、気が気でなかった。大輔のことだ、いつ、おれたちの家に連れて行こう、と言いだすか知れたもんじゃない。
そこで昌平は、機先を制した。
「ダイちゃん、わしは歯医者に予約しているんで、先に帰るよ。――やっぱり、警察に連れていくべきだと思うけどなあ」
後のほうは小声で言って、昌平はさっさと帰って行った。
あとに残された大輔に向かって、老人が言った。
「さっきの爺さん、きみのこれか」
老人はいたずらっぽい目つきで、右手の握りこぶしから小指を突き出した。
案外隅に置けない爺さんだと思いつつ、大輔が気のきいたことを言おうとする前に、老人が立ちあがった。
老人はボストンバッグを片手に、もう一方の手で大輔の手を掴み、歩き出した。どうやら公衆トイレに向かっているようだ。
「どうした、爺ちゃん。小便がしたいのか」
大輔が問いかけても、老人は黙って大輔の手を引っ張って、トイレの中に入っていく。
早朝のトイレは、人の姿も見当たらない。強いアンモニア臭が鼻を突いた。
老人は大輔の手を握ったまま、一番奥のブースに入っていった。
「おい、爺ちゃん、何をする気だ」
不審に思って大輔が聞くと、老人が振り返って、無邪気に微笑んだ。
「一度、きみのような良い男と、やってみたかったんだ」
「いい――」
大輔はうめいた。
横に開いた白い尻が、とろけるような柔らかさで、下腹部に絡みついてくる。その中心部が陰茎を奥深く咥え込んで、吸いつき、生暖かく濡れてうごめく。
大輔は、駅弁スタイルで老人の体を抱え込み、壁に押しつけて、両手で老人の尻を支えていた。
老人のほうは、大輔の体にしがみつき、股を開いて絶妙の軟らか味を差し出している。
性交するには少々窮屈な体位だが、祖父に似た老人の顔を見ながらやれるのがいい。
「ああっ――はあっ――」
微かに開けた老人の口から、甘い喘ぎ声が漏れ出てくる。
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