第一話 春はあけぼの

第一話 春はあけぼの

それは十年来の日課になっていた。日の出とともに家を出て、小一時間ほどかけて町中を散歩する。
昇は、きれいな白髪に野球帽を被り、中肉中背の肉体を薄いセーターとトレーニングパンツで包んで、家を出た。
早春の心地よい微風が、色白の頬を愛撫する。人気のない通りを歩きながら、昇はいつにない充実感を覚えていた。
(今日は何か、いい事が起きそうだ――)
古希を過ぎているにもかかわらず、彼は肌の泡立つような予感にとらわれた。
酒屋の角を回ったところで、ふと足を止めた。内科医院の住宅部分から、顔なじみの老人が出てくるのを目にしたからだ。
(なんでこんな時間に、昌ちゃんが――)
昇が疑問に思う間もなく、老人の後ろから大柄な体格の医師が姿を現した。五十年配の医師は素早く通りを見渡して、いかにも親密そうに背の低い老人の肩を抱いた。それから老人の耳元で何事か囁いたあと、家の中に姿を消した。
情事の匂いを嗅ぎとった昇は、少なからず驚いた。二人が男色家であるのは知っていたが、驚いたのは、小柄な老人には長年同棲している相方がいて、老人は一穴主義――いや、ウケだから一本主義と思っていたからだ。

医者と別れると、老人はとぼとぼと歩き出した。その足取りは、疲れておぼつかない。
(昨夜は、よほど激しくやったようだな――)
歩き去る老人のふくよかな尻を見ながら、昇は微笑んだ。彼は少し考えて、老人のあとを追った。
興味があった。
老人が同棲している相手は、父性愛の象徴のような男で、昇も何度か抱かれたことがある。とにかく精力絶倫かつ生来の浮気者だが、憎めない性格の持ち主でもある。
その男が浮気をするのは分かるが、律儀で献身的な老人のほうが浮気をするとは、にわかには信じがたい。

前を歩く老人の自宅が近づいてきた。間が悪いことに、同棲相手が門前にいた。恰幅の良い体を屈め、竹箒をもって路上のはき掃除をしている。
(これはひと悶着あるぞ――)
昇は立ち止まって、様子を見ることにした。
小柄な老人がふらふらと近づいていく。それに気づいた初老男が、朝帰りの相棒に向かって、明るい声で呼びかけた。
「よう、おはようさん」
「おはよう」
老人は、ぼそっと呟くように言うと、男の脇を通り抜けた。
「いま飯を炊いているところだ。味噌汁を作ってくれ」
老人の背中に向かって、男が言った。いつもながらに大きい声だったので、離れている昇にもよく聞こえた。
老人は肩をわずかにすくめただけで、黙って家の中に入っていった。
(どうなっているんだ、この二人は――)
昇は、訳が分からなかった。平然と朝帰りをする老人も老人だが、それを何の咎めもしない相方の精神構造も理解できなかった。
ふと見ると、男が昇の姿に気づいて手招きしている。
薄い布地に包まれた大きな肉体――とりわけ、ズボンの付け根のもっこりとした膨らみを見て、体の芯がゾクリと疼いた。
昇は十人ほどの男を知っているが、彼の体に真の悦びを刻印したのは、この男だった。
近づくと、昇の心を見透かしたように、家の主が言った。
「そんな色っぽい恰好で歩いてたら、発情した男に襲われちゃうぞ」
男は朗らかに笑うと、あっけらかんと言った。「どうだ、爺さん、久しぶりに嵌めてやろうか」

――◇――

窓を覆う分厚いカーテンが外光を遮り、かすかに唸る空調機が温かい微風を送ってくる。
薄闇の中、ふたつの裸体が絡み合っていた。満々と肉をたたえた固太りの大きな肉体と、しっとりと脂肪の層で覆われた中肉の体――。
大輔は六〇代前半、短く刈った胡麻塩頭、年相応に肉付きの良い顔と、いたずら坊主のように輝く小さな目をしている。
肉の厚い大きな手の愛撫に、悩ましげに肢体をくねらす昇は、きれいな白髪と品の良い顔立ちをして、大輔より十ほど年長だ。
昇は夢心地だった。唇を吸われ、大きな手が全身を撫でまわす。やがてその愛撫が尻に集中して、狭間にそっともぐり込む。
昇は本能的に尻を閉じたが、図太い指がかまわず侵入してくる。狭間の柔らかい皮膚の上を滑り、指の腹で可愛らしい蕾をまさぐる。
湿り気のある蕾がヒクヒクと蠢く――。
昇は喘いで、大輔の胸に顔を押し付けた。
大輔は上体を起こすと、老人をうつ伏せにした。
シミひとつ無い、しっとりとした尻だった。
大輔は両手を添え、いとおしむように双丘を愛撫した。それから上体を屈め、その狭間に顔を埋めた。
舌の先で転がし、ねっとりと舐める。
昇が、小さな喘ぎ声をもらした。
しばらくして、白い双丘を左右にぐっと押し開いた。みずみずしい薄紅色の菊座が曝け出される。そのウブっぽい眺めに、大輔の下腹部に力がみなぎった。ほの暗い股座で、肉の大砲が禍々しく天を仰ぐ。

もはや大輔の思いは、体の一点で楽しむことしかなかった。
老人の尻を引き上げると、常人の倍
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