第2章 大自然を歩く
(1)
5月3日の早朝、茂と洋平は尾瀬に向けて出発した。東京駅から新幹線に乗って上毛高原駅で下車し、バスに乗り継いで大清水に着いた。11時近くになっていた。
「部長、ここからは歩きですよ」
背中に担いだリュックサックの位置を整えながら、洋平が言った。
ワンゲルをやっていただけあって、身に着けた服はよく着古されている。丸っこい尻に布地が張り付いて、見ている茂の微笑みを誘う。
「ああ、了解です」
茂はうなずいたあと、大きく伸びをした。
空気がうまかった。久しぶりに大自然の中にきて、気分が浮き立ってくる。
彼は老人のほうを見ながら、軽口を叩いた。
「それにしても、飯田さんはお若いですね。登山姿が――」
そのあと危うく、「可愛らしい」と言いかけて、「さまになってる」と言い換えた。
登山帽で薄い頭髪を覆った老人は、童顔小柄なだけに、まるでピクニックにでかける小学生のようだった。それでも茂は、デリケートな老人に気を遣っていた。可愛らしいなんて言えば、傷つくだろう。
洋平は、はにかんだ笑みを浮かべて、上司の大柄な体をまぶしそうに見た。
「部長だって、ジーパン姿が、とてもすてきですよ」
(2)
尾瀬沼に向かう道は、新鮮な息吹に満ちていた。5月に入って連日の好天気に雪が融け、イワツバメやヤマバトの遅い春を告げる声が聞こえてくる。
三平峠までの登りを終えると、突然眼下に姿を見せた尾瀬沼の光景は、疲れを忘れさせるほど素晴らしかった。
(ああ、やっぱり尾瀬は、最高だな――)
眼下の景色を見ながら、洋平は心が浮き立つのを覚えた。
そのとき、横のほうで水の音がした。
そちらを向いた彼は、目にした光景にハッと息を呑んだ。部長がズボンの前を開いて、おしっこをしているのだ。
洋平は、目を逸らすことができなかった。指先からぞろりと突き出たモノは、ふてぶてしいほど太く、陽光のもとで薄茶色につやつやと輝いていた。その先端から、健康的ないきおいで小水がほとばしり出ている。
見ていて、心臓の鼓動が速くなった。できることなら自分の手で支えてやりたかった。
そして、温もりと弾力とボリューム感を、直に感じたかった。
茂はすっきりすると、手にしたものを悠々と振って雫をきった。そこで、老人が見ているのに気づいた。
「失礼、せっかくのいい眺めを穢しましたかな。どうにも我慢できなくて」
彼は人の好い笑顔で、言い訳した。
「あ、いえ――」
洋平はどぎまぎして、口ごもった。
二人は、3時間ほど歩いて尾瀬沼に到着した。
さすが山歩きに慣れているだけあって、洋平は疲れも見せず、遅い昼食の用意をした。
ラジウスを使って手際よくお茶を沸かし、コンビニで買ったおにぎりと惣菜を並べた。
食事をしながら、二人はなごやかなひとときを過ごした。
洋平は幸福感でいっぱいだった。すぐそばに大好きな部長がいて、その顔は、大いなる父性愛で満ちあふれている。
大股開きで丸太に腰掛け、地図を見る部長の股間は、モッコリとした性器の膨らみが見て取れる。それを見るにつけ、三平峠で思いがけずも目撃した太い性器を思い出して、洋平は体の芯がじんわりと疼くのを覚えた。
いっぽう茂は、久しぶりに充実感を覚えていた。3時間の歩きも苦にならなかった。むしろ、歩いたことによって血行が良くなり、ふつふつとした精気が体中を駆け巡っていた。その上、具合の悪いことに、性欲が高まっているのを自覚した。
これまで男色を経験したことはなかったが、飯田老人の妙に心を惹きつける艶やかな唇や丸っこい尻を見て、性的な気分になっていた。
二人は30分ほど休憩した後、尾瀬ヶ原に向かってのんびりと歩き始めた。
融けた雪の間から、早咲きのミズバショウが清楚な姿を見せていた。
ああ、尾瀬に来てよかった――。茂は、つくづくそう思っていた。
(3)
予約していた山荘に着いたのは、7時を過ぎていた。
さすがに茂は、疲労を覚えた。それに輪をかけたようなハプニングがあった。宿側の手違いで、客室が満杯だというのだ。
愕然とした二人に向かって、宿の主人は申し訳なさそうに言った。
「すみません、あなたがたが来られるのを一日、間違えていました」
それからおずおずと言った。「あのう、代わりと言っちゃあなんですが、従業員用の部屋が、ひとつ空いています。狭い部屋ですが、そこでよろしければ――」
否も応もなかった。主人はふたりがうなずくと、あらためて言った。
「それから、ベッドはひとつしかございません。宿代はお安くしておきますので、ご辛抱ください」
案内された部屋に行くと、部屋の大半をひとつのベッドが占めていた。
ベッドの上にはひと揃いの寝具。そこに部長と一緒に寝るのだ。
そう思ったとたん、洋平の胸が早鐘を撞くように高まった。
(部長はどう思われているのだろ
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