第1章 出会い

第1章 出会い

人それぞれに好みがある。また、好みも年齢とともに変化する。わたしの場合は、セックスの共感者を、女性から男性に鞍替えしたことであろう。
そもそもの始まりは、大学時代に遡る。
当時わたしは福岡の親元を離れ、上野の下町で生活していた。二十才前後といえば、やりたい盛りの年頃である。わたしとて例外ではなかった。
風俗店で童貞喪失の儀式をすませたあと、学内で知り合った女子学生を皮切りに、喫茶店の店員、コンパで気の合ったOL、小遣いをくれる人妻――多くの女性たちと親密な関係を結んだ。
わたしは、父から頑健な肉体と旺盛な精力を、母からはおおらかな精神を受け継いでいた。今でこそ体重過多で見る影も無いが、当時は精悍なスタイルをしていたと思う。

とにかく体力と精力には自信があった。
そんな生活の中で唯一、異例の経験をした。
年配男性との性行為である。相手は大学三年生になってから引っ越した先の大家で、リタイアした元大学教授だ。
詳細は別の機会に話すとして、とにかくこの年配者がわたしの進路を変えたのは確かである。(あるいは目覚めさせたというべきか)
元教授は専門分野が医学だっただけに、人体の仕組みについて詳しかった。彼の教えてくれた中で、とくに東洋の医術――性感帯のツボや刺激の与え方――は、人を意のままに扱う技術として、感心させられるばかりだった。
出藍の誉れという。最初のうちは元教授の手と口によって、一方的に翻弄されていたわたしは、鍛錬することによって、逆に年配者を、我を忘れて善がり声をあげさせるまでになっていた。

災い転じて福となす。
災いのほうは、新入社員のとき、職場の仲間たちとスキーに行ったときのことだ。
都会の雑踏から離れ、白銀の世界で爽快な気分を味わえば、若い健康体にとって性欲が高まるのは自然の摂理であろう。大学時代、下宿先の主人に男色の良さを教えられてはいたが、まだまだ相手を選ばないほど性欲は強い。
ロッジに泊まった夜、若さが暴走して、衝動的に女子社員を抱いてしまった。
女体に接するのは久しぶりだったので、油断した。射精のうずきに、あわてて引き抜こうとしたが遅かった。内部に発射してしまったのだ。
そして悪い予感があたった。やはり相手は妊娠していた。
毎日が重い気分だった。女は入籍してわたしの子供を産むことを望んだ。一方わたしは、態度をはっきりさせなかった。いや、胸の内では、はっきりしていた。年配の男性に想いを抱きながら、正常な夫婦生活など送れるはずがない。

煮え切らないわたしの態度に、とうとう業を煮やした女は、強引にわたしを両親に引き合わせた。会合の場所は、ホテルの最上階にある店、わたしにはなじみのない高級レストランだった。
彼女が言うに、妊娠したことは、既に両親にも伝えてあると言う。
「それで――なんて言っていた?」
ホテルに行く道すがら、わたしは彼女に訊いた。
「うーん、それぞれね。母は同性だから、わたしの立場を理解してくれたけど」
「なんだい、きみの立場って?」
「つまり、母も結婚の動機が似たようなものだったの。強引に処女を奪われて、結婚したのよ。その相手が父よ」
「――」
わたしは複雑な心境だった。女はすっかりわたしと一緒になる気でいる。そしてわたしには、その気がない。ましてや、堕胎の話を持ちかけようものなら、確実に修羅場を見る。わたしは不安な気持ちで、なおも質問した。
「それで――お父さんの反応は?」
「父は男だから――」
彼女は意味ありげにわたしを見て、にっと笑った。
「最初、わたしの告白を聞いたとき、あなたのその――を、ちょん切ってやると息巻いていたわ。でも母がなだめてくれたから安心なさい。だって、ちょん切られたら、夫婦生活が送れなくなるもの」
女の言葉は、わたしの不安感をますます増幅させた。彼女との結婚を断ったら、一体わたしの身に何が起こるのだろう?

そしてついに、女の両親に会った。
衝撃的な出会いだった。
会った瞬間、わたしの視線は、彼女の父親にくぎ付けになっていた。まさに本理想というべき、魅力的な男性だった。
四十六歳、中央官庁に勤める幹部公務員。中肉中背、やや小太り気味。ごま塩頭はすでに薄く、おでこは丸く禿げ上がっていて、年齢以上に老けて見える――。
おそらくこんな表現になるのだろうが、その男性には筆舌で表しえない、わたしの心を惹きつける何かがあった。
まず、これほど穏やかな表情をした男性には、始めて出会った。わたしは信仰心があるわけではなかったが、思わず仏さまを思い浮かべていた。
顔は年相応に肉付きが良く、色白の頬はつやつやとして健康的だ。薄い眉毛の下、銀縁めがねの奥で、深い二重まぶたの小さな瞳が、穏やかに輝いている。鼻と口はやや大きめだが、そこはかとない気品と色気を滲ませている。
また顎
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