……(4)

(4)

その日は早めに家に帰った。右舞百八の床屋は月曜日を定休日にしているので、そこで働く華下満須夫を屋敷に呼んでいたのだ。
夕方6時に帰り着くと、先に来た華下は応接間で待っていた。
篤志はまず、真締がサロンの店主から手に入れた写真を見せた。
「その男は、きみが知っている尾知利好蔵だろう。もっとも本名は、雄士利輔と言うらしい。静岡出身で50歳だ」
華下は手にした写真を、食い入るように見ていた。
「きみは、その男が好きなのか?」
篤志の質問に、華下は激しく首を振った。
「とんでもございません。こんな男、大嫌いです!」
「まあ、そうむきになるな。ところで、これはきみが提出したリポートだろう?」
篤志は、総合企画室の烏合の机から入手した資料を、華下に渡した。
華下はざっと見て、怪訝そうに言った。
「確かにこれは、わたしが烏合課長に提出した資料ですが。どうして会長が持たれているのですか?」
若者は篤志を会長と言った。床屋の百八が、そう呼んでいるのを聞いたのだろう。
華下の質問には直接答えず、篤志はつぶやくように言った。
「なあに、なにかときな臭い煙が社内で立ち込めている、と言うことだ。ところで、もうひとつ、きみに見てもらいたいものがあるのだ」
彼はリポートと同じ封筒にあった、数枚のコピーを見せた。「伝票のコピーのようだが、何か意味があるのかな?」
華下は資料をじっくりと見ていた。

しばらくして顔を上げると、はっきりとした口調で言った。
「これは、粉飾した伝票の写しだと思います。半分は広告宣伝費の支払い伝票ですが、相手先は2社の名前しかありません。わたしの記憶が正しければ、この2社は小さな会社ですから、伝票に書かれている金額ほどの取引はないと思います。残りの伝票は、日付を追って調べないと断言できませんが、空出張や空接待の支払い伝票だと思われます。なぜかと言えば、内容に対して金額が大きすぎるからです」
「じゃあ、この申請者欄にある、日間梨取締役、総務の尾人部長や意地課長――今は経理部長だが――この3人が粉飾して、会社の金を横領したと言うのだな」
横領という言葉に、華下は自分のことを思い出したのか、下を向いた。
「それは――ちょっと追跡調査をすれば、すぐ分かることです。たとえば、支払先の広告会社を追求すれば、支払金がどこに還元されたのか掴めるでしょう」
篤志は華下の言うことを反芻した。それから微笑んで言った。
「いや、ありがとう。きみのお蔭でずいぶん分かってきた」
「いえ――会長のお役に立てるのなら」
褒められて、華下は恥ずかしそうに頬を染めた。
初心な面を薄紅色に上気させ、つつましく下を向く若者を見て、篤志は思わず、うなじに吸い付きたくなる欲望を覚えた。
「今日、きみと話したことは、口外無用だよ」
青年がうなずくと、篤志は打ち合わせを締めくくるように言った。
「じゃあ、これでおしまい。今日は爺さんが、自慢のカレー料理を作っているから、一緒に付き合っておくれ。――その前に、ちょっと時間があるので、風呂に入りなさい。広くて気持ちいいお風呂だよ」

華下が風呂に入ると、篤志は少し遅れて服を脱ぎだした。彼に下心があって、若者の裸をひと目見たかったのだ。でも一緒に入ろうとすると、嫌がるかも知れない。それで遅れて入ったのだ。
案の定、篤志の裸を見て、華下はびっくりしたようだ。湯船から見上げ、あわてて目を伏せる。その仕草がまた初心っぽい。
篤志は洗面器で湯を掬って前を洗うと、浴槽に入った。
「どう、庭が見えるし、浴槽も広くて気持ちいいだろう」
篤志が話しかけると、若者は面映ゆそうに微笑んだ。
「ええ、とても気持ちいいです」
湯に沈む若者の肌は、異質なほど白かった。それにやや小柄な中肉体型は、弾力があってまろやかな感じだ。
将来ある若者を男色対象にするのは気が引けたが、篤志は思い切ってたずねた。
「きみは、わたしが嫌いか?」
華下はエッと言うように篤志を見て、恥ずかしそうにうつむいた。
「――好きです」
「それは嬉しいな」
篤志は立ち上がると、湯の中を移動して、若者の横に体を沈めた。
若い男を相手にするのは趣味ではないが、華下だけは特別だった。男とも女ともつかない中性的な顔立ちは、子供の顔をした高貴な仏さまのようだった。
彼は若者の体を引き寄せると、震える唇に唇を重ねた。
「うっ、ううっ――」
若者がかすかにうめき声を上げ、自らもしがみついてきた。
驚くほどやわらかい体だった。手にしんなりとなじみ、肌のきめが女のように細かい。まるで生まれながらに、男を喜ばせる体をしているようだ。
足を伸ばして、小柄な体を横抱きにした。そのまま口を吸いながら、じっくりと愛撫した。腹の上で若者の体がしなやかにうねった。

興奮が募ると篤志は湯の中で立ち上がり、若者の目の
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