(1)
「――男の名前は雄士利輔、50歳、出身地は静岡です。店主の岡さんが言うに、男が店のサービス会員の登録をするときに、車の免許証を出したので、確認できたそうです」
監査室長の真締忠義は、ヘアサロン・マサから戻ってきて、篤志に報告していた。
篤志は、手にした雄士の写真を改めて見た。カメラの性能が良いのか、画像は細部までくっきりと写っていた。
たしかに、いい男だった。鼻筋が通って、目元が涼やかだ。服装は年齢の割に、軽薄そうに見えた。水色のチェックシャツにデニムのジャケット、濃紺のパンツと茶のベルト。胸にさりげなくピンクのポケットチーフをさしている。
「免許証を見たのなら、確かな情報だな。で、店主はほかに何か言ってなかったか?」
「ひとつあります。雄士が一度だけ、背の高い男を店に連れてきたそうです。なんでも高校時代の級友とかで。その男も雄士同様、すごくいい男だったそうです」
「あの店主は、盛りのついたメス猫のようなものだ。男と見ると、みんないい男に見えてくるさ」
篤志の言葉に、真締は後ろめたそうな表情をした。そして、おずおずと言った。
「実は、岡さんがなんでそんな話をしたかと言うと、一緒に来た男が、私と同じバッチを襟に着けていたそうです」
「なにっ!なぜ早く、それを言わん」
篤志は驚いた。「その男の名前は分かっているのか?」
「それが――男は名前を言わなかったので、岡さんがしつこく聞くと、笑いながら『おひいさま』とでも呼んでくれと言ったそうです」
「おひいさま――お姫さま?」
篤志は考え込んだ。
高校時代の級友ということは、50歳で静岡出身ということか。日間梨産業のバッチとおひいさま――。そこでインスピレーションが湧いて、ハッとした。
(まさか――)
彼はその思いを抑えて、真締のすっきりした頭を見ながら言った。
「ま、あの店主も変わり者だが、テクニックはたいしたものだろう」
「それは、もう、天国にのぼったようで――」
言いかけて、真締はあわてた。相談役が散髪技術のことを言っているのに、気付いたからだ。
「天国――?」
篤志は怪訝そうな表情をした。
「あ、いえ、頭をいじられるのが気持ちよくて――」
篤志は真締の顔をしばらく見ていたが、話題を変えた。
「そういえばビル事業部の社員が、タバコ屋で男を見たと言っていたな。彼を呼んで写真を見せてごらん。同じ人物かどうかはっきりする」
さっそく真締がビル事業部に電話した。担当社員は社内にいて、しばらくすると相談役室にやってきた。
社員は写真を見て、すぐうなずいた。
「間違いありません。私が見たのはこの男です」
予想通りの返事だった。篤志は、社員に質問した。
「ところで、ビル建設の進捗状況はどこまでいってる?」
「はい、タバコ屋の敷地を外した計画で、現在設計中です」
「じゃあ、タバコ屋の敷地が買えたら、計画修正は可能だね」
ビル事業部の担当社員は、エッと言う顔で篤志を見た。
「相談役、タバコ屋の敷地を買える当てでもあるのですか?」
「いや、言ってみたまでだ」
篤志は軽く手を振った。
ビル事業部の担当者が退室すると、真締が質問した。
「相談役、タバコ屋に会いに行かれますか?」
篤志は考えていることを見抜かれて、オッという顔で真締を見た。それからおもむろに言った。
「タバコ屋の件は私に任せてくれ。きみには、もう一度、マサに行ってもらいたい」
真締がギョッとしたように、篤志を見た。明らかに嫌がっているようすだ。
篤志は立ち上がると、自分のデスクに行き、引き出しをゴソゴソとかき回していたが、戻ってきた時には社友誌を手にしていた。
篤志は声をひそめて言った。
「雄士利輔がマサに連れて行ったという男だが、この人物だったかどうか、店主に訊いてくれ」
そして社友誌の開いたページを、真締に見せた。
「相談役、これはっ!」
真締は仰天した。そのページには、日間梨梵取締役の写真があったからだ。
篤志は言い訳するように、説明した。
「私の勘違いであってくれればよいが――。とにかく記事の部分を除いて、顔写真だけコピーして持って行きなさい。それから、この雄士という男の写真だが、あと3枚ほどコピーしておくれ。強羅警部ほか何人かに調べてもらうつもりだ」
真締が資料を持ってコピー室に行っている時間を利用して、篤志は稚加良強に会う段取りをした。ついで馴染みの天ぷら屋に昼飯の予約を取り、運転手の大木奈にも待機するよう連絡した。
篤志は真締と運転手をお供に、天ぷら料理を食べていた。
「どうだ、揚げたての天ぷらはうまいだろう」
篤志の問いかけに、ふたりは満足そうにうなずいた。
「前に御馳走になった鰻重もおいしかったけど、相談役は、本当においしい店をご存じですね」
新たにきた車エビの天ぷらを食べながら、真締が言った。
「まあ、食
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