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仲間篤志は相談役室のデスクを前に、「さあて」と自分に気合を入れた。
おもむろに内ポケットから、古い電話帳を取り出す。赤坂にあるヘアサロン・マサ。
偶然、華下満須夫の口からマサの店名が出たときは驚いたが、一時期、彼が利用していた床屋だった。
その店の経営者は岡昌実と言って、床屋の右舞百八の遠縁にあたる。百八より10歳近く若いから、今は60前後のはずだ。篤志が精力旺盛な頃、遊び半分で抱いてやったこともあるが、おしゃべりがうるさいので自然に足が遠のいた。
その岡の店に電話をするのは、気乗りがしなかった。それでも思い切って、篤志は電話をかけた。
若い男の声がして、少し待たされたあと、年増のような声が受話器に響いた。
「あら、アーさん?まだあの世に行ってなかったのね」
「ああ、お前と同じに、憎まれっ子、世にはばかる、だ」
「ま、いやだ。口の悪さは相変わらずね」
「それもお前と同じだ。ところで、お前のところの客で、尾知利好蔵って名前の男はいるか?」
「いやだ、いきなり直球でくるなんて。アーさんたら、昔から、一直線に突っ込むのが好きだったわね。――おしりすきぞう?素敵な名前だけど、そんな人、知らないわ」
「偽名を使っているかも知れないな。歳は50前後だが、若作りしている。なんでもテレビタレントのように、いい男らしいが」
少し間があって、昌実の声がした。
「ひょっとして、リーちゃんのことかしら。名前は、おしりすけ、っていうのだけど」
(おしりすけ――おしりすきぞう。確かに同一人物の可能性はあるな)
篤志は、昌実がカメラ好きなのを思い出した。
「その男の写真はあるか?」
「写真?リーちゃんって、いい男のくせに、写真を撮られるのを極端に嫌がるの」
そこでクスクスと笑い声。「でも、あるのよ。リーちゃんに内緒で撮った写真が」
篤志は単刀直入に言った。
「その写真をわたしによこせ」
「あら、ずいぶんな要求ね。なんか悪いことに使うのでしょう」
「わたしが悪いことに使うのじゃなくて、その男が悪いことをやっているんだ。それを暴き立てるためだ」
しばし沈黙があって、声が聞こえた。
「やっぱりね。リーちゃんって顔はいいけど、性格は悪そうだから。――いいわ、彼の写真をあげる。その代り、アーさんがお店に来て、散髪するのよ」
「お前にいじられるほど、髪は残っていない」
そこで、ふと思いついた。「わたしの代わりに、お前好みのいい男を寄越す。真締という名前だ。写真もその男に渡してくれ」

電話の後、篤志は監査室長の真締を部屋に呼んだ。
真締がやってくると、篤志は、昨日華下満須夫から聞いた話をした。話の内容に、真締はかなりショックを受けたようだ。ノンケな彼にとって、とても信じがたい話だろう。その彼を、岡昌実のところに行かせるのは後ろめたい気がしたが、背に腹は代えられない。
篤志は何食わぬ顔で言った。
「真締くん、少々髪が伸びているぞ。散髪にいったらどうだ」
「はあ、行きたいのはやまやまですが、なかなか時間がとれなくて」
「だったら今、行って来なさい。同じ赤坂にある、ヘアサロン・マサって店だ。わたしから電話してやる」
「会長が行きつけの店ですか」
真締の問いに、篤志は眉をひそめた。
「いや、この数年は行ってない」
それから、さりげなく言った。「そこの店主の岡昌実は、華下くんを騙した男を知っているようだ。写真もあると言うので、帰るとき貰ってきて欲しい」

真締忠義はヘアサロンに行く道すがら、あれこれ考えていた。
仲間相談役は謎の多い人物だった。一見、人情味のある紳士風だが、ときに鋭い洞察力を見せる。それに幅広い方面の人たちと、コネを持っているようだ。
実際、今回の調査でも、彼の知らないところで相談役が手を回している。それに華下満須夫の件――あんな恥ずかしい話を、よく華下の口から引き出したものだと感心する。

まもなく、目的のヘアサロンに着いた。普段なら、彼がとても入りそうにない店だった。ロングヘアーの若いタレントが来るようなところだ。
「あら、アーさんが言ってた人?わたし好みのいい男ってよく言うわね。アーさん、近頃お見えにならないけど、わたしから逃げているのかしら」
サロンの主、岡昌実は、お姉言葉でまくしたてた。薄化粧しているが、年齢は60歳くらい。背は低く、ぽっちゃりと太っている。ロマンスグレーのカールした長髪はカツラと分かるが、キューピッドのように可愛らしい容貌は性別不明だ。
「いや、仲間相談役はお忙しくて――そのう、よろしくって、おっしゃっていました」
真締は、一瞬たじたじっとなりながらも、お愛想を言った。
「いやだ、あのアーさんが、よろしく、ですって。どうせわたしのことを、化け物みたいに言っているのでしょう」
岡は顔をしかめたが、まんざら相談役がきらいな風には
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