(4)
目が覚めたとき、自分がどこにいるのか分からなかった。
すぐ横に好の寝顔を認め、昨夜のことが思い出された。久しぶりに精を放出して、篤志は満足感を覚えた。まだ自分にも、荒々しいオスの力が残っていたのだ。
体の節々が痛いが、なんとなくウキウキした気分になる。
床に落ちかけた毛布を好の体にかけてやり、部屋を出た。ホールに細紐が張られ、ふたりの下着と衣服が干されている。昨夜、洋児が洗濯してくれたようだ。触ってみると、すでに乾いていた。
トイレから戻って時計を見ると、4時半だった。
窓を開けて外を見た。空はどんよりと灰色味を帯び、路地はまだ薄暗かった。こんな早くに猫が1匹、あたりを睥睨するように通りを歩いていた。
背後の気配に振り向くと、全裸の好が佇んでいた。
薄闇に浮かぶ色白の体が、ドキッとするほど艶めかしい。ほんの一晩で、艶やかな老人に変身していた。小さな目は生き生きと輝き、頬の肌艶が良かった。まるで、生命のエッセンスを注ぎ込まれたようである。
「起きたか」
篤志が声をかけると、好は恥ずかしそうな表情をした。老人の柔らかい感触がよみがえる。篤志は歩み寄り、小柄な体を抱きしめた。
そっと唇をあわせる。――熱い血が下腹部におりてくる。
(もう一度、抱くことが出来るだろうか)
その誘惑を断ち切って、老人から離れた。
「服は外に干してある。もう乾いているようだ」
好は、ありがとうございます、とつぶやいて部屋を出た。
少し足をひきずっている。
それを見て、篤志は罪悪感を覚えた。
(昨夜は激しくやりすぎたか。もうすこし優しくしてやるのだった)
グランパラダイスを出て、好と別れると、篤志は家に戻った。
着替えをした後、会社に行くことにした。今日は休み予定の日だが、真締の書いたリポートを、もう一度細部まで読み直してみようと思った。経理部で起きた不祥事は、なにか引っかかるところがあった。
門のところで見送りをする忠は、まだ表情を曇らせていた。篤志が朝帰りしたとき、忠は珍しく小言を言ったのだ。
「外でお泊りになるときは、ひとこと、ご連絡ください」と。
忠の言うことは、もっともだった。昨夜篤志は、興奮のあまり家に電話を入れなかった。おそらく忠は、一晩中、心配して待っていたのだろう。
篤志は使用人に対して、素直に謝った。
会社に行って、デスクの引き出しから資料を取り出そうとしたとき、オヤッと思った。資料の順番が変わっているのだ。
彼は重要と思われる資料は、鍵のかかる右下の引き出しに入れ、その鍵は上段のオープンな引き出しに放り込んである。
夜間は、部屋そのものにセキュリティーがかかっているし、昼間は役員フロアの入り口に受付嬢がいる。だから、鍵の管理はさほど気にしていなかった。
(誰かわたしの資料を見ようとした者がいるな)
彼は受付嬢に電話した。
「今朝わたしが来る前に、だれか部屋に入ったか?」
受付嬢は誰も来ないと言う。
「じゃあ、昨日は?わたしが夕方、外に出たあとだ」
彼女は少し調べているようだったが、まもなく返事をした。
「経理の意地部長が見えられました。経理資料をデスクの上に置いておくように言われた、とおっしゃって」
「そうか、ありがとう」
篤志は電話を切ると、今度は意地渉に電話をした。
「昨日、経理資料を持ってきたそうだが」
意地は一瞬沈黙したが、すぐ明るい声で言った。
「ああ、それは受付の勘違いです。わたしは、日間梨取締役のところに、資料を届けたのです」
(なるほど――よくできました)
篤志は皮肉な思いで、電話を切った。昨日、日間梨に食事を誘われたのはなにか違和感を覚えたが、どうやら意地を使ってスパイ作戦に出たようだ。
(ということは、何か後ろめたいことがあるな)
間締の書いたリポートを読み返していると、当の本人から電話があった。経理部の元社員、華下満須夫に会う件だが、次の日曜日だったら都合がいいと言う。
「華下はわたしと会うことに、よく了承したな」
「じつは――」
間締は言い辛そうだった。「最初は渋っていたのですが、手続きがまだ残っていた、と言って了承させました。――それに、相談役が会われるということは、先方に伝えていません」
「――手続きが残っているのか?」
「あ、そのう、とくに重要なことではなくて――」
篤志はニヤリとした。真面目一方の間締も、少しこなれてきたということか。
「ところで、きみに聞きたいことがある」
言いかけて、篤志は考えを変えた。「あ、いや、それはまたにしよう。じゃあ次の日曜日、よろしくな」
篤志が聞きたかったのは、日間梨梵の取り巻きの社員たちのことだった。でもそれを真締に聞くのは、今の段階ではまずいと思ったのだ。
しかし彼は、すでに代替の人間を見つけていた。
その日、大木奈の運転する車で帰宅途中、わざわざ回り
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