(3)
仲間篤志は朝から思い立って、スポーツジムに行った。すこし体重を減らそうと思ったのだ。マシンを使って腹筋運動を中心にやり、仕上げはプールで軽く泳いだ。
久しぶりだったので、筋肉が悲鳴をあげた。さすがに疲れた。
家に帰って、庭を見渡す広縁に横たわった。
肌に当たる風が気持ち良い。庭先の茂みに、半夏生の葉が白い化粧をして、つつましい穂状の花序を立てている。
いつしか眠っていたようだ。
転寝したあとの心地よいだるさで、覚醒してからも、しばし縁側に横たわっていた。
体がこわばっている。腹に張りを感じた。やはり急激な運動は、身に応えたようだ。
「お目覚めになりましたか」
声が聞こえて、忠が姿を見せた。そして、篤志が腹をさすっているのを見て、心配そうに言った。
「お加減でも悪いのですか?」
「少しジムで頑張りすぎたようだ。腹の筋肉がおかしい」
「ちょっと見てさしあげましょう」
忠が脇に座って、篤志の腹を手のひらで押した。
「ここはどうです、痛みますか?」
「いや、とくに」
「こちらは?」
「あ、すこし痛い」
ひらいた手が、腹全体を丁寧に押していく。肥った腹が、やわらかく沈んだりふくらんだりする。硬く張ったところを見つけると、親指の腹で何度もぐっと押す。ウッとくるが、我慢する。
忠は丹念にマッサージを続けた。柔らかい手の平の圧力に、腹の張りが解れていく。
「ああ、楽になった。つぎはこちらを頼む」
篤志は忠の手を掴んで、自分の股間に押し付けた。
「旦那さま、こんな昼間から、冗談はやめてください」
忠は抗議しながらも、手をどけようとはしなかった。
昼過ぎに、大木奈の運転する社用車に乗って、真締が家にやって来た。
今日は篤志の出勤日ではないが、真締と一緒に霞が関の警視庁本部に行く予定だった。
会うのは刑事部の強羅鉄男、42歳になる警部で、篤志の個人的知り合いだった。
篤志はスーツに着替えて、真締とともに出かけた。
半時間ほどで、車は皇居のお堀に面する桜田門前に着いた。
東京都を管轄地域とする警視庁の本部庁舎を見上げた時、そのいかめしい威容に、監査室長の真締は膝が震える思いだった。どうして相談役が警視庁の警部と知り合いなのか、興味のあるところだが、仮にその理由を知ったとしても、真面目な彼にはとても信じられないことであっただろう。
――20年ほど前。篤志が右舞百八の借金を肩代わりして、所有する貸家で床屋を始めさせた頃だった。
旧友の稚加良強が、篤志のところに若い男を連れてきた。180センチを超える長身で、横幅もかなりある。顔つきもごつくて、夜間だったら、とてもひとりで会いたくないようなタイプだ。
それが稚加良の甥にあたる、強羅鉄男だった。
甥を別室に待たせて、強は言った。
「鉄男は母親の手ひとつで育てられた。頭も良いし、体も良い。あれで柔道5段だ。ただ難点は、くそ真面目なことだ。22歳になるのにまだ女を知らない」
つまり、強が言うのは、甥に遊びごとを教えてくれ、そうすれば人間性も、もう少し幅が出来るだろう、ということだ。
旧友が帰った後、篤志は青年と話をした。そしてすぐ見抜いた、この早くに父を亡くした男が、本当に求めているものを。
彼はその夜、初心な青年を連れて、右舞百八の店に行った。
巨漢の青年は、百八をひと目見て呆然と立ち尽くした。彼にとって、男とも女とも分からない妖しい魅力をたたえた小父さんは、夢に見るような愛の化身だった。
「まあ、大きいお方。ささ、こちらにお上がりなさい」
百八は青年の手をとって、部屋へと誘った。太い指に、蕩けるようなやわらかい指がからみつく。鉄男は顔を真っ赤に染め、体をがくがくと震わせている。
篤志はそれだけ見届けると、床屋をあとにした。
その夜、鉄男が百八のかわいらしい尻を抱え込んで、本能のよろこびにすすり泣いたのは、想像するまでもない。
以来、ふたりの付き合いは始まったが、まさかそれが20年経った今も続くとは、そのときの篤志には思いもよらないことだった。
「じゃあ、このDVDはお借りします。不審人物と思われる者が映っていたら、組織犯罪対策部の連中にも見てもらいましょう。見知ったその筋の者がいるかも知れない」
ひと通りの説明が終って、江利戸社長から預かった自宅監視カメラのDVDを渡すと、強羅警部は力強く言った。
「ああ、お願いしますよ。あなただけが頼りだ」
篤志は鷹揚にうなずきながら、大きな体をした絶倫警部を見やった。その横では、真締がかしこまって頭を下げた。
庁舎を出た後、真締と大木奈運転手は会社に帰した。篤志は歩いて2分ほどの霞ヶ関駅まで行って、地下鉄に乗った。
湯島の駅でおりて、さて、どうしょうかと思ったが、夕方まで時間があるので、上野の恩賜公園まで足を伸ばすことにした。
不忍池のハスは、浮世絵に描
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