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翌週の月曜日、仲間篤志はスーツ、ネクタイ姿で出勤した。会社は赤坂にあるので、千代田線に乗れば1本で行ける。
入社の手続きをすませると、会社の主だった人物に会った。ほとんどの役員は見知った顔で、篤志の部下だった人物もいる。彼らは篤志が今さらなんで相談役になったのか不思議に思っているようだが、そんな疑問はおくびにも出さなかった。
最後に挨拶に行った御膳会長は、先週の自宅でのやり取りなどなかったかのように、ただ事務的によろしく頼むと言っただけだった。
ひと通りの挨拶が終わって、自分用にあてがわれた相談役室に落ち着いたときは、ほっと一息吐いた。
昼近くに、彼の部下だった社員から昼飯の誘いがあったので、一緒に食べることにした。指定された中華料理店に行くと、二人の中堅社員が待っていた。昼食をとりながらしばしの談笑を楽しんだ。
昼食後、監査室長の真締忠義を部屋に呼んだ。
真締は部下だったこともあるので、人と成りはよく知っている。几帳面そうな顔をした小柄な男で、55歳になるはずだ。お堅くて融通が利かないことから、上司や社員たちに敬遠されがちだが、篤志は彼の能力を高く買っていた。豊富な知識と、何事も手抜きせず、こつこつと地道にやり抜いていく性格をしている。
「とりあえず、会社でこの1年間に起きた不祥事や事故をまとめて、リポートを出してくれ。それから、現在の懸案事項もだ。どんな些細なことでもいい。とにかくきみが気になったことは、すべて書いてくれ」
篤志の矢継ぎ早の指示に、真締は慣れた手つきでメモを取っていた。それから不明な点を確認して、メモに書き加えていく。
最後に彼は質問した。
「いつまでに提出したらよろしいでしょうか?」
「そうだな――きみも監査室の仕事があるだろうから、期限は特に切らない。空いた時間でやってくれ。ただし、部下は使わず、きみひとりでやるのだぞ」
そこで篤志は、いったん言葉を切った。「いいか、今回のリポートに限らず、私の依頼したことは全て、きみひとりでやってくれ」
これで、秘密を要する仕事だということが、彼にも分かっただろう。真締の顔を見ると、嬉しさと誇りのようなものが窺える。
その日の仕事が終わったとき、現役時代に親しかった部下たちが集まって、歓迎会を開いてくれた。
同じビル内の最上階にあるレストランで、夜景を眺めながらの会食だった。そんなときは、ふと昔に戻ったような気分になった。
久しぶりの宮仕えで、さすがに疲れたので早めに切り上げた。
ありがたいことに、運転手の大木奈のスケジュールが空いていて、自宅まで送ってくれることになった。篤志が現役の時、よく使っていた運転手だ。
車の中で、大木奈運転手とのんびり会話した。
「ダイちゃん、何歳になる?」
「はい、この7月で58歳になります」
「道理で貫録がついてきたはずだ。それに、元気そうじゃないか」
「相談役もお元気そうです。常務をやられていたのが、ついこの前のように、感じられます」
「ああ――これからも、ちょくちょく乗せてもらうよ」
「ええ、いつでも遠慮なくおっしゃってください。実は今日、日和取締役に呼ばれて、命令を受けました。これからは、仲間相談役の運転手を最優先でやれと」
日和も味なことをやるな、と思ったが黙っていた。
車が湯島に入ったところで、ふと思い立って、グランパラダイスの前で停めさせた。そこで運転手と別れた。
店に入ると、数人の馴染み客、そして一番手前の席に独是老人がいた。老人は篤志のスーツ姿を見て、話しかけてきた。
「お、勤め人が戻ってきたな。どうだ、会社は?」
「久しぶりだったので疲れました。ネクタイをしていると、なんだか絶えず喉を締め上げられてるような気がします」
「だったらコックリング代わりに、ナニに着けたらどうだ。もっとも、お前のチンチンは、ネクタイが結べるほど長くないが」
いつものことなので、篤志は気にも留めなかった。彼は老人の横の席に腰掛けた。
「まあまあ、ご隠居、お酒でも飲んで」
老人の前に空いた湯割り用のコップを手に取って、マスターに合図した。
「余―ちゃん、ご隠居さんのお替り。半分でいいよ」
老人が絡んできた。
「おい、わしは老い先短い年寄りだぞ。そのわしに酒を飲まして、余生を縮めようって言うのか」
「あれっ、嫌なのですか。だったら、私が飲みますよ」
「ちょっと待て!やっぱりわしが飲む。――おい、洋児、半分なんてケチなこと言わず、満杯にしろ!」
そのとき、客が入ってきた。槍田井芳桂――薬局店の主人である。本人も薬剤師の免許を持っているが、もっぱら店の運営は女房任せにしている。
彼は関西出身で、55歳になる。それでも20代の若者のような服装をしている。下半身にぴっちりと張り付いた細いズボンは、ナニの膨らみまでくっきりと浮いている。見て
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