(4)

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うだるような暑さがようやく収まってきた9月の終わり頃、総務部の懇親会が催された。休みの前日の夜、有馬温泉に一泊しての宴会だった。
その夜、総務部の連中はびっくりした。どういう訳か、木原社長とうるさ型の大園専務が出席したのだ。会社のえらいさんがふたりも参加して、皆一様に緊張していた。
それでもみんなで温泉につかり、旅館の浴衣に着替えると、すっかりくつろいだようだ。
いよいよ宴会が始まった。板張りの宴会場は、8人ずつ座れる堀りごたつ式のテーブルが配置され、前に舞台が設けられている。全員がそれぞれの席についた頃、木原部長が演台にあがって一礼した。
「高いところから失礼します。僭越ですが真山取締役に代わって、挨拶させていただきます。今回は、社長と専務がどうしても出席させてくれということで、特別参加していただいております」
木原社長から茶々が入った。
「むりやり連れてきたんやろうが――不足分の宴会費を出させるために」
一同が爆笑した。これがきっかけとなって、部屋の中にくつろいだ雰囲気が流れた。
木原部長がつづけた。
「内部事情を暴露するもんじゃありませんよ。――それからご紹介します。当社のために、超破格値でこの宴席を用意していただきました、水仙閣の主人、松井さんです」
それまで穏やかな笑みを浮かべて、部屋の片隅で正座していた60年配の男が、立ち上がって頭を下げた。
「本日は水仙閣をご利用いただいて、ほんまにおおきに。木原のボンには、いつもお世話になっております。今日はそのご恩返しを、せいぜいさせていただきますわ」
「おやじ、有り難う。じゃあ乾杯の音頭を、社長にお願いします」

木原部長が引き下がって、代わって木原社長が立ち上がった。日頃は黒っぽいスーツ姿を見慣れた皆にとって、浴衣を着た社長は、ぐっと親しみがもてた。
「ああ――木原部長に、こんな幹事の才覚があったとは、思っても見ませんでした。まあ、人間なにか取り柄はあるもんで、この才能を少しでも仕事に活かしてもらいたいと思っています。
それはさておき、今日皆さんの明るく元気のいい顔を拝見して、安心しました。ごちそうを前に小難しいことを言っても、右から左の耳に素通りすることやし、まずビールで喉を潤しましょう。これにたどりつくまでに前置きの長かったことは、幹事に代わってお詫びします。それでは皆さんの健康と活躍を祈って――乾杯!」

宴会は和気あいあいのなかで始まった。食事もひと通り終わった頃、木原部長の姿が宴会の席から消えた。
若い社員が投光器を調整しだした。営業部から施設課に来た、江口という社員だ。機転の利く男で、紳一が何かと重宝していた。彼の操作で、部屋の照明が薄暗くなって、艶めかしいムードミュージックが流れだした。
スポットライトが当てられたとき、部屋の中がどっと沸き立った。なんと、部長が女装姿であらわれたのだ。あでやかな和服をまとい、芸者風のかつらをつけていた。おしろいを塗りたくった顔には、うっすらと頬紅をさし、真っ赤な口紅をオチョボ口風に塗っている。
紳一はしずしずと演台に上がり、右袖で口元を隠しながら、しなをつくって皆に流し目を送った。
拍手と口笛が湧き起こった。
着物の丈が短く、むきだしの毛脛が笑いを誘った。ミュージックに合わせて踊る紳一の姿は、体格が良すぎることを別にすれば、女形の特徴をよく捉えていた。
「よう、日本一!ねえさん、今晩わしの部屋においで!」
植田課長が掛け声をあげた。紳一は植田を見て演台を降り、課長の小柄な体を抱きしめると、頬にキスをした。赤い口紅が、べったりとついた。
ついで紳一は真山取締役に近づき、袖を引っ張って立ち上がらせた。皆のはやし立てる中、照れくさそうな真山の片腕を抱え込み、紳一はふたたび舞台に上がった。
彼は真山をたくみに誘導しながら踊った。真山は、よたよたと紳一についていくだけで、精一杯だった。女装した背の高い紳一に、浴衣姿の真山がしがみついた格好に、全員が笑い転げた。

舞台から引き揚げた紳一は、社長と専務の席に割り込んだ。
木原社長が皮肉っぽく言った。
「ご苦労さん。それにしても、たいした役者ぶりやな」
紳一はふたりにお酌をしながら、艶めかしく言った。
「おおきに、社長はん」
大園が横から茶々を入れた。
「社長、木原くんは会社でも、なかなかのタヌキ役者でっせ」
「おおきに、オーさん、誉めていただいて」
紳一は澄ました顔で、大園の尻をつねった。
「いたたっ!」
大園がおおげさに叫んだ。ふだんは厳めしい顔をした大園が、こんなはしゃぎ声をあげる姿はめずらしかった。福井次長がポカンとした顔で、専務を見ていた。
大園は紳一の片手をとり、その腰に手を回して、紳一の体を引き寄せながら言った。
「それにしても色っぽいな、姉さん。どうや、今晩わしと
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