(3)

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福井は、新任の木原部長に、いらいらされっぱなしだった。脳天気で、無遠慮で、恥知らずだった。人の目があるのに、彼の尻を傍若無人に撫で回したりする。彼は部長との肉体関係を、他人に知られたくなかった。知られれば、彼の昇進にも影響する。
どういうわけか、社内の年寄り連中が、この若い部長になついているのも、気にくわなかった。ひょっとしたら部長は、年寄りの従業員たちもベッドに引っ張り込んでいるのではないだろうか。そんなことを思うと、嫉妬にも似た感情が湧いてくる。
今も部長は、就業時間にもかかわらず、数人の年寄りどもを相手に、バカ話をして笑っている。
福井はその中のひとり、施設課長の植田に声をかけた。
「植田さん、Bブロックの空調はどうなったんだ。具合が悪いと言ってたが」
植田がこともなげに返答する。
「ああ、あれはもう直ってますわ」そしてまた、木原部長の話に加わる。
「直ったんなら、すぐ報告してもらわないと困るんだ」
福井はいらいらして言った。
その福井の耳に、植田に話しかける木原部長の声が届いてくる。
「おい、フグのやつ、なに苛ついてるんだ」
「なあに、いつもあの調子ですわ」
「そうか。おれはてっきり、あいつ、生理不順かなにかだと思ったぞ」

「ちょっと神経質になりすぎやないでっか。わしには木原部長がそんなにひどいとは、思えへんけどなあ」
「わたしはべつに、木原部長の悪口を言ってるんじゃありません。ただ、社内の規律のことを言ってるんです。今日だって、仕事中に無駄話ばかりして――取締役もお聞きになっていたでしょう?」
「そない長話でもなかったし――目くじら立てて言うことでもない、思うんやけどなあ」
真山は甘さを含んだ上品な顔を傾けて、福井を見ていた。白髪白面、銀縁眼鏡をかけて、優しい目をした男だった。話し方もゆったりとして、物柔らかだ。紳一がつけた仇名のように、教会の神父のような雰囲気がある。
福井はふてくされて言った。
「社員に対して、わたしのことをフグと呼んでいるんですよ」
その言葉に、真山はおっとりとした笑みを浮かべた。小ぢんまりとした口の福井が、頬を膨らましたさまは、思わず吹き出すところだ。
ノレンに腕押しのような真山との会話に、福井はうんざりしてきた。こんなことなら最初から、大園専務のところに行けばよかった、と彼は後悔していた。

「あれ、なにか打ち合わせですか?」
背後から木原部長の声が聞こえてきて、福井の体が10センチほど飛び上がった。
紳一は涼しい顔で福井の方をちらっと見て、真山に話しかけた。
「施設課の人員を少し増やしてもらおうと思いまして。いいですか?」
真山は面食らったようだが、おっとりと聞いた。
「それは難しいことでんね。うちの会社は、あまり人の余裕がありませんさかい。いったい、何をやるつもりでっか?」
「詳しいことはレポートにまとめますから、それを読んでください」
そこで紳一は、福井に向かって言った。「今夜付き合ってくれますか。その件で相談があるんだ」
今夜の付き合いがどういったものか、木原部長の目を見てすぐに分かった。
福井は肌の泡立つような慄きを抑えて、小声で返答した。
「分かりました――」

相談どころではなかった。しかも福井の意見の入り込む余地は、全くなかった。
彼はただ、春の嵐のような木原部長に翻弄され、犯される悦びをほんのちょっぴり味わったあと、レポートに書くべき内容を指示された。

翌日、提出されたレポートを前に、さすがの真山も考え込んでいた。
施設課にプロジェクト要員として、ふたりの人員が補充されている。ひとりは昨年入社した営業部の若い社員、もうひとりは外人の名前が書かれていた。ポール・マッケンナ。真山の知らない名前だった。
そして、プロジェクトチームを作る主旨が、簡潔にまとめられていた――いや、簡潔過ぎるほどだった。『会社資産の有効活用のために』と表題部があって、A4の紙一枚に説明書きがあるだけだ。
営業部の男子社員の配置替えは、不可能と思われた。あのうるさ型の青柳取締役が、黙って社員を差し出すわけがない。それにこの外人さんは、いったいどういう素性の人間だろう。真山はまず、そのへんから質問した。
「このポール・マッケンナって人、どこの人でっか?」
「ああ、アメリカ人ですわ。私がアメリカにいたとき、知り合った人。本業は建築のデザイナーだけど、ワインや清酒にも造詣が深い。まさに当社にぴったりの人材です」
そこで、この件は済んだとばかり、紳一は話を進めた。
「真山さん、あとはお願いします。福井次長の意見もじゅうぶん聞いています」
言ったあと満足そうにうなずく紳一の横で、福井が「よく言うよ」という顔つきで部長の方を見ていた。
「しかし、この若い社員をもらうのは、営業部ともよく調整してみんとあき
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