(4)

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景は祖父を背負って歩き出した。そのあとを、安田が毛布とスコップを抱えて、よろめきながらついてきた。あたりは薄暗くなってきて、冷たい風が吹いていた。
ようやく浅瀬に辿り着いた。景は用心しながら、石ころだらけの川床を渡った。足首が水に浸かり、噛みつかれたように冷たかった。
川を渡りきると、休まず杉林に向かった。靴の中が濡れて、歩きづらかった。林の中に入ると、多少、風と雪がやわらいできた。
少し歩いて、高い木々で囲まれた窪地を見つけた。景は立ち止まって、後ろを振り返った。
「安田さん、ここで野宿をしましょう」
安田がほっとしたように、吐息をついた。祖父の体を雪の窪みに横たえると、彼らはガタガタと震えながら靴と靴下を脱ぎ、濡れた足をタオルで拭いた。靴底の湿っぽさは取れないが、我慢して履くしかない。
景はスコップを使って雪を掘り固め、3人が充分横たわれるほどの深い窪みをつくった。それから毛布を雪の上に敷き、その上に祖父の体を横たえた。
その後、祖父の体を調べた。まず靴を脱がせて、湿っていないか確かめた。足の指は冷たかったが、異常はないようだ。足首の腫れは前よりもひどくなっていたが、今はどうすることもできない。
祖父は心配になるほどおとなしく、血の気を失った顔には表情がなかった。景はハーフコートを脱ぐと、祖父の体の上に着せかけた。
安田がブックマッチを持っていると言うので、焚き火になるものを探しに出かけることにした。一緒に行くと言う安田をなだめて断り、林の中に入った。
枯れ枝は雪の下に埋もれていて、集めるのに苦労した。ふと思い立って川の方に戻った。思ったとおり、役に立ちそうな流木を見つけた。満足のいく量の枯れ木を集めるのに、予想外の時間がかかった。

問題はそれからだった。ブックマッチには3本しか残っていなかった。枝木は湿っているが、失敗はゆるされない。
そんなとき、安田が意外な才能を見せた。
「こんなことをすると罰が当たりそうですが――」
運転手は財布から、数枚の紙幣を引き抜いた。彼は紙幣をもみほぐして小枝の下に置いた。それからもう一枚の紙幣を取り出した。まるでマジックを見ているようだった。火のつけられた紙幣から小枝に、そしてより大きな枝へと炎が燃え移っていった。炎が安定してくると、安田はそのまわりに流木をあぐらに組みだした。
景はその間に、もっと流木を集めようと川の方に探しに行った。焚き木を山と抱えて戻ってくると、井形に組んだ丸太にも火が燃え移っていた。
炎の明かりが祖父と安田の体を、暖かく包み込んでいる。冷え切った景の体にも、じんわりと暖気が染み渡ってきた。安田が満足そうな表情をして、景を見上げた。彼は疲れきった表情をしていた。額の打ち傷は紫色に変色していた。

景は焚き火のそばに落ち着くと、運転手に聞いた。
「安田さん、おでこのほうは大丈夫ですか?」
安田はちょっと額に触れ、気丈に微笑んだ。
「べつに、なんともありません。それにしても、お坊ちゃまは、よくこんなことをご存知ですね」
彼は自分たちのいる雪の窪みを見渡した。
「ああ、以前映画で見たことがあるんだ。その映画では、吹雪に襲われた主人公が、雪の中に埋もれて一晩過ごすんだけど、それを応用してみたんです」
「そうですか――それにしても、お坊ちゃまがおられて、助かりました。私ひとりでは、とてもこんなことはできません」
「安田さんだって、湿った木に火を熾すことが出来たじゃないですか。よくあんなことを知っていましたね」
安田が照れくさそうに微笑んだ。
「いや、前にちょっと山登りをやってたものですから」
「そう。――救助隊が来るまで、ここで待つほかありませんね。たぶん秀和兄さんが警察に連絡していますよ」
そこで景は、ことの発端になった疑問を口にした。「それにしても――なぜブレーキが両方とも故障したんでしょう?」
安田はなにか言いたそうな顔をしたが、黙っていた。
「展望台に行くまでは、どこも異常がなかったんでしょう?」
「ええ――」
安田は考えるように言った。「異常はございませんでした。毎朝点検しておりますから」
そのことは景も知っていた。今朝も早くから、車の点検をする安田の姿を見掛けていたのだ。
「サイドブレーキが踏み込めなかったって――なにか挟まっていたのかなあ?」
安田はおずおずと言った。
「じつは――」そこで彼は首を振った。「いや、間違いでしょう」
「なんですか、安田さん。なにが間違いなんですか?」
安田は言い渋っていたが、とうとう重い口を開いた。
「じつは、サイドブレーキが踏み込めないので足元を見たとき、ブレーキペダルの下に、缶のようなものが挟まっていたんです。それで足を伸ばして靴先で蹴ったのですが、よほど固く挟まっているのか、ビクともしなくて」
「缶のようなものが挟ま
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