(2)
藤森秀和はこのところ、ずっと不機嫌だった。
不機嫌になる原因のひとつは、上原景の存在だった。その男は私生児のくせに、最近ちょくちょく家にやって来て、我が物顔に振る舞いやがる。その私生児に、父や家族ばかりか、家の使用人たちまでがすっかり手なずけられている。それに輪をかけて、秀和が苦手とする鎌倉の祖父までが、私生児を気に入っている節があるのだ。
それに、景といっしょにいる、やたら根アカのババアも癪の種だった。厚かましく、あちこちに顔を突っ込んできて、ずけずけといらぬ世話をやく。この前も彼に、結婚を勧めたばかりだ。合いの子のくせに、生意気なババアだ。
もうひとつは、家の執事が代わったことだ。彼がせっかく飼い慣らしたと思っていた栗原が、私生児のアパートに行き、代わりにやってきたのが、うどの大木の安田だ。
安田は62歳のジジイだが、自分より大柄で、力がありそうなのが癪に障る。それに生意気で、こっちをちっとも恐れていないところも気に食わない。
新しい執事が家に来て、金の無心をしようと、自分の部屋に呼んだときのことだ。安田はのうのうと言ったのだ。
──お坊ちゃま、私はあなたの親御さまの役割をやるために、このお屋敷に来たのではありません。お小遣いが必要なら、お父さまかお母さまにお願いしてください――。
態度はあくまで慇懃に、それでいて言いたいことはずけずけと言う。安田はそんな男だった。
執事が言ったせりふを思い出すたびに、はらわたが煮えくり返るような怒りを覚えた。
(畜生、あのジジイ、いつかきついお仕置きをしてやる――)
彼は密かに計画を練り、それを実行するチャンスをうかがっていた。
――◇――
男は両腕を組み、床に倒れた老執事を見下ろしていた。
中背だが、がっしりとした体つき、半袖から突き出た両腕は筋肉が盛り上がって、まるで樫の木の根っこのようだ。
男の名前は飯島剛。一時期、藤森宗春の私設ボディーガードをやっていたこともある。空手5段、柔道5段の飯島は元警察官で、男気のある性格の真っ直ぐな男だった。
しかし、彼には致命的な欠陥があった。すぐカッとなるのだ。その性格のために、上司を殴って警察をやめ、数人の総会屋を半殺しの目に合わせて、藤森宗春のボディーガードを首になった。
今は風俗営業店の用心棒をやっているが、ボディーガード時代の縁で、藤森宗春の孫、秀和の汚れ仕事をときどき引き受けていた。そして今、安田という老執事を誘い出して、罠にかけたところだ。
部屋の中には飯島のほかに、ふたりの若い男たちがいた。彼らは飯島の指図によって、意識を失った老人を隣室に運び込んだ。老人は、その年代にしては大柄な体格をして、若者達はその体を運ぶだけでも苦労していた。
飯島は電話をかけた。相手が出ると簡潔に状況を伝え、そして電話を切った。それから、老人の運び込まれた部屋に入っていった。
老人は素っ裸にされて、ベッドに横たわっていた。手足は大の字にベッドの鉄枠に結わえつけられている。何も身につけていないその体は、老いたプロレスラーのように逞しかった。息遣いにつれ、柔らかく上下に起伏する腹部の動き以外、死体のようにピクリとも動かなかった。
飯島は、畏敬の念をもって、老人の裸体を眺めた。
「立派な体をしている。それに、この男のムスコを見ろよ」
飯島は若い男たちに言った。「この年寄りは、ほんものの男だ。若い頃は、さぞかし女どもを悦ばせただろうな」
飯島は、雇い主のボンボンが来れば何が行われるか、おおよその見当はついていた。それに思いがいたって、彼は顔をしかめた。
「もうすぐ坊ちゃんが来るはずだ。おれは帰る。あとは頼んだぞ」
彼は若者たちに言うと、部屋を出ていった。
安田は意識を取り戻したとき、天井灯のぎらつく照明に目をそばめた。それから自分の状態に気づいた。頭の芯に鈍痛が残っていた。彼が覚えているのは、出されたお茶を飲んだときまでだった。
「気がついたようだな」
聞きなれた声に、安田は首を捻じ曲げて、声のしたほうを見た。若主人の藤森秀和の姿があった。しかし、老人は無言でいた。
秀和はベッドに近づくと、醒めた目で安田の裸体をねめまわした。
「じいさん、いい体をしてるじゃないか」
屈辱感で頬を染めながら、安田はだまっていた。彼は非難するような眼差しで、若主人の顔をじっと見た。
「でかいチンポだ。これまで何人の女に嵌めた?」
秀和はいやらしい目つきで、老人の股間に横たわる性器を見た。「今でも、おっ立てることができるのかよ、じいさん」
彼は力を込めて老人の腹を殴った。安田は低いうめき声をあげたが、平然としていた。
「我慢強いじじいだぜ。いいか安田、これからお前に執事の心得をたっぷりと教えてやる」
安田が初めて口をきいた。
「秀和坊ちゃま、おやめなさい。こんなことを
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[*]
感想