(1)
藤森嘉一は久しぶりに、旧友に会っていた。東都銀行の鈴木とは、高校から大学にかけて、なにかにつけ、競い合い、助け合った仲だった。
「藤森、おまえ、しばらく見ぬ間にえらく若返ったじゃないか。それに、明るさも増した」
「明るさが増したって、おれの頭のことを言ってるんだろうが」
「ばか、素直に受け止めろよ。なにかいいことがあったのか?」
嘉一は親友に、上原景のことを話そうかと思ったが、思いとどまった。
「しかしおまえだって、相変わらず若々しいじゃないか」
「その先は言わないでいい。どうせまた、あとで落とすんだろうが」
「おれの言葉も素直に受け止めろよ。ところで、千津子さんもそろそろ適齢期だな」
鈴木は嘉一の顔を見て、ニヤリとした。
「ああ――じつは、まだ娘には引き合わせていないが、ある男を婿候補に考えてるんだ」
「そうか。おまえが選ぶんなら、大丈夫だろう」
「ああ、いい男だよ。たまたまある会合で、席が隣り合わせになったのが縁でね。見栄えもいいけど、なによりも性格がいい。とにかく、近頃の若者にしては、めずらしくできた人物だよ」
そこで、鈴木は意味ありげに嘉一を見た。「実は、私らとも縁の深い男なんだ。彼の素性を聞いたとき、あまりの奇遇に、おれはびっくりしたよ」
「なんて名前だ?」
「だれだと思う?」
「もったいぶらずに言えよ」
鈴木はゆっくりと言った。
「――上原景」
嘉一は自分の耳を疑った。ひょっとしたら鈴木は、自分と景の関係をなにかで知って、からかっているのかと思った。
しかし鈴木は、真面目そのものの顔で言った。
「おい、上原って姓を忘れたのか?マドンナだよ。大学のとき、みんなで競い合った上原マリ子だよ」
嘉一はしばらく口が利けなかった。
そんな嘉一の心情にも気づかず、鈴木は話をつづけた。
「最初、その若者を見たとき、どことなく見たような顔だなと思ったんだ。彼に西洋人の血が混じっているのは、明らかだったからね。彼と話をしているうちに、おれの予感はドンピシャリさ。上原マリ子の息子だったんだ。気の毒に、マリ子さんは交通事故で亡くなられたそうだ――」
鈴木は感慨深げに虚空を見た。「おれはそのとき思った、これは天啓だってね。ちょうど娘の結婚相手を探しているときに、おれが想いこがれていた女性の息子に会うなんて」
「それで――相手の方は、その気があるのか?」
「それは分からん、まだ話していないからな。とにかく最高の男だ。おまえも彼に会ったらわかるよ。おれは娘を彼に引き合わせるつもりだ。親の贔屓目かも知らんが、おれの娘だってなかなかのものだぞ」
「ああ、千津子さんなら申し分のない女性だ」
嘉一は友人に真実を打ち明けるべきか、迷っていた。そこで彼は、ひねった質問をした。
「その若者の身上調査はしたのか?」
「おまえらしい質問だな」
鈴木は笑った。「調査はまだしていない。しかし、彼と話した限りでは、その心配はないな。育ちと性格のよさが、にじみ出ている男だ。もっとも、彼はあるベンチャー企業に勤めていて、生活の将来性は不安定だけどな」
「鈴木、あの――その男が庶子だったらどうする?」
「庶子?私生児のことか?」
鈴木がけげんな顔をした。
「ああ――」
嘉一はあいまいにうなずいた。
「おまえ、なんでそんなことを聞くんだ?」と鈴木。
嘉一は腹を決めた。景が鈴木の娘と結婚できれば、願ってもないことだった。
「じつは――上原景は、おれの息子なんだ」
鈴木は、声も出ないほど驚いたようすだった。彼はまじまじと嘉一の顔を見た。
「おい、冗談言うなよ」
そこで、嘉一の真面目な表情に気づいて「と言うことは、おまえとマリ子さんは――」
「ああ、事情があって、彼女とは結婚できなかった。しかし、上原景がおれの息子であることは間違いない。いまも、ときどき景と会っているんだ」
「なんだか複雑な心境だな。自分の娘の婿にしようとしている若者が、じつは親友の隠し子だったなんて。それに、おまえ――ずるいぞ。おれに抜け駆けして、マリ子さんをモノにするなんて」
「人聞きの悪いことを言うなよ。おれとマリ子は愛し合っていたんだ」
「だったらなぜ、彼女と結婚しなかったんだ?」
「――」
嘉一は言葉に詰まった。「その話題は勘弁してくれ。とにかくお前の話には、おれも賛成だ。こんど景に会ったら、お前の話をしてみるよ」
――◇――
景は坂本千秋に惹かれていたが、最近、その思いはますます強くなっていた。と同時に、ふたりの仲がちっとも進展しないことに、苛立ちを覚えていた。千秋はウイットとユーモア精神に溢れているが、いつも意識的に景と距離を置いているようで、この年配者の本心が掴めないのだ。
景は河合老人とベッドを共にしたとき、寝物語に老人と千秋がときどき男色行為をしていると聞いていた。だから千秋が
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