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テクノ21の研究所で働き出した景は、じょじょに仕事にのめり込んでいった。
彼は学術研究者らしく、論理面から仕事にアプローチして、理論上のアイデアを次から次ぎに提案していった。
それは、実務的な技術に強いスタッフたちとは、根本的に違う発想方法だった。
研究所長の池田文彦だけは、景と同様、論理思考をする人間だった。この老研究者は、世間体にまったく疎いが、こと電子工学の技術に関しては寝食も忘れるほどの情熱をもっていた。彼にとって、研究所長という肩書きは、関心の無いところだった。
池田は71歳になるが、景たちと同じ単身者用の寮に住んでいた。この気持ちの若い老人は、夜ともなると寮の娯楽室で、若手技術者たち相手に議論に熱中する姿がよく見かけられた。話題の大部分は、現在開発中のディスプレーの技術に関することだった。
メンバーの中心はいつも池田と景だった。池田が話題を提供すると、景が別の視点から対論を展開する。議論は深夜におよぶこともたびたびあった。ときには、浮かんだアイデアを検証してみようと、そのまま深夜の研究所に行って実験することもあった。

こういった仕事上の関わりの裏側で、景は池田に対して、ある種のときめきを覚えていた。景はこの理解しがたい心情を、父親像へのあこがれと決めつけていた。
しかし、寮の浴場で、スリムだが柔らかみを帯びた池田の老人らしい裸体を見るにつけ、性的な欲望も募らせていた。池田の出てくる夢を見て、朝起きたとき夢精しているのに気付き、恥ずかしい思いをすることもあった。
そういった欲望を昇華させる為にも、朝の長距離走はつづけていた。学生時代ほど時間は割けなかったが、毎朝5時半に起きて、筑波の山裾を1時間かけて走った。牧歌調の風景の残る筑波は、走っていて心がなごんだ。
走った後は寮の近くの公園で、少年時代におぼえた少林寺拳法の形を反復して、気息を整えた。

テクノ21に入社して1年余りが経ち、開発中のディスプレーの技術的な問題はすべてクリアされ、いよいよ商品化の段階に入った。また、日本を含め海外での特許申請の手続きも、着々と進んでいた。
そんなある日、景は望月社長と池田研究所長のお供をして、東京の得意先に出向いた。
テクノ21がディスプレーを納入する大手メーカーのフジ電子から、開発中の新商品の技術的説明を聞かせてくれ、と要請があったのだ。
景はフジ電子に行くと聞いて、少々複雑な気分だった。就職活動中、父の勧めるフジ電子を断って、父と喧嘩別れしたままだった。
それはともかく、メーカー側の反響は大きかった。なにしろ、新商品が完成すれば、従来商品の75パーセント近くのコストですみ、しかも性能は飛躍的にアップするのだ。
試作品によるデモンストレーションと簡単な製品説明が終わると、フジ電子側から次々に質問をくりだしてきた。応答はもっぱら景が受け持った。彼は簡潔に、そして肝心の企業秘密の部分はぼかして、質問に受け答えした。

景の説明に、年配の男が発言した。
「きみの話を聞いてると、肝心の部分にモザイクを入れて、なんだかポルノ映画でも見ているようだな。もっと細部まですっきりと見せてくれないか」
年配者の言葉に、ほかの社員がドッと笑った。発言した男は、恰幅のよい体つきで、人を人とも思わぬ横柄な態度をしていた。初対面のときの名刺交換で、川勝という名前の会長だった。
景は生真面目に返答した。
「企業秘密の部分はご勘弁ください。まだ特許手続きも、完了していませんので」
「だから何だって言うんだ」
川勝会長がふんぞり返って言った。「べつにわしたちは、そっちの機密を盗もうなんて考えていないぞ。それともなにか――きみは、うちがそんなことをするんじゃないかと」
川勝会長は最後まで言わず、景をにらみつけた。
「そんなことは毛頭、思ってもいません」
景は困った顔で、望月のほうをチラリと見た。望月も景と同様の表情をしている。
川勝会長が厚かましく追及してきた。
「だったらきっちりと説明しろ。わしらも、きみの会社の製品が使えるかどうか検討するんだ。細部まで知る必要がある」

相手の横柄な態度に、景はカチンときた。彼は腹を据えると、顧客の顔をまっすぐに見ながらきっぱりと言った。
「ご説明できるのはここまでです。御社で使えるかどうかは、今日のデモンストレーションでご判断ください。それから、ポルノ映画をご覧になりたいのなら、どこか他を当たってください。わたくしどもは、風俗営業店ではございませんので」
景が一気に言ったあと、部屋の中が一瞬、シンと静まり返った。
フジ電子のほかの社員たちは、遠慮がちに川勝会長の方を盗み見た。望月が、なんてことを言ったんだ、というように景のほうを見ていた。
ところが驚いたことに、川勝会長が笑い出した。彼は豪快に笑いながら景に言っ
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