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景は大学院を卒業すると、テクノ21に就職した。家族と離れて生活するのは、そのときが始めてだった。
テクノ21の従業員は、総勢100人ほどの小人数で、そのうち工場で働く40人は、地元採用の女性パートだった。
「製造ラインにひと工夫してね。彼女らのほとんどは、家庭の主婦なんだ。でも彼女らの勤労意欲は充分ある。パートなら、自分の生活スタイルに合わせて、仕事をすることができるからね。それに、会社にとっても、人件費の合理化が図れるメリットがあるんだ」
社長の望月が、自画自賛ぎみに説明した。
その年の新入社員は、景を含めて3人いた。最初の1ヶ月間は研修期間として、工場の実習や研究部門のミーティングへの参加、本社事務部門のオリエンテーション等を受けた。その間、大学院を出た景は、ほかのふたりより年長だったので、なにごともリーダー役をまかされていた。
研修期間が過ぎ、景はディスプレーの研究開発部門とAI開発部門を、かけもちで担当することを命じられた。
景に配属を伝えるとき、望月が言った。
「きみには高い視点で、両方の開発に参加してもらいたいんだ。どちらも息の長い開発だから、気分転換にもなるし、発想の閃きは、往々にして別のことをやっているときに生まれるものだ。両方の時間配分は、きみの自由にやってくれ」
それに応えて、景は言った。
「じゃあ、当面はディスプレーの開発の方に重点を置きます。研修のときに、いくつかインスピレーションが湧いたので、それを実験して見たいんです」
「さすが、上原くんだ。もうアイデアが浮かんだのか」
「あまり期待しないでください。みなさんが長い時間をかけて研究してきたことです。新人の私が一朝一夕にできるわけがない」
研修最後の夜、景たち3人の新人は、望月社長と土浦の小料理屋で会食した。社長のほかに、副社長の岩佐と工場長の中野が出席していた。テクノ21は、もともとテレビのブラウン管部品の製作からスタートした会社で、岩佐も中野も、町工場時代から社長の望月と寝食をともにした仲だった。
岩佐は、胡麻塩頭の、リスのような愛らしい目をした小柄な男で、営業・総務を統括していた。中野は、彼らの年代にしては大柄な体格をしていて、物事に拘泥しないおっとりとした、根っからの技術者だった。
食事が終わり、彼らは店を変えて、望月の行きつけのクラブに行った。そこは地方都市の店にしては垢抜けたところで、ゆったりとしたスペースと趣味のよい内装が施されていた。店内の奥にはピアノが置かれていて、若い女性が生演奏をしている。彼らは一番奥の席に陣取った。
その日、景は控えめにアルコールを飲んでいた。
「おい、上原くん、きみはあまり飲めないのかい?」
アルコールが入って、すっかり上機嫌になった望月が、景に言った。
景は遠慮がちに言った。
「ちょっとセーブしているんです」
いぶかしげに、望月が訊いた。
「セーブ?どこか具合が悪いのか?」
「いえ、どこも悪いところはありません。ただ、これ以上飲むと、悪い癖が出てきそうなので――」
「悪い癖?きみ、酒乱の気があるのかい?」
「酒乱というほどのことでもないですが――祖父に釘をさされていまして。そのう――飲みすぎると無茶苦茶、陽気になって、はしゃぎだすんです。自分で押さえようとしても、止まらなくなるんです」
「それならいいじゃないか」
「でも、皆さんにご迷惑をかけそうで――」
「いいじゃないか」
横から岩佐が口出しした。「上原くん、遠慮することはない。明日からは仕事だ。今夜はおおいに飲んで、おおいにはしゃぎたまえ」
景は勧められるままに、ウイスキーを飲みだした。それもスコッチのストレートを。
「きみ――結構いけるじゃないか」
景の飲みっぷりを見て、多少不安そうに望月が言った。
30分後、景はすっかりでき上がっていた。彼は先ほどからピアノの横にへばりついて、マイクを離さなかった。女性ピアニストに次から次へと曲を注文して、プレスリーやビートルズのナンバーを歌いつづけていた。
彼は曲の合間に、アドリブでジョークを飛ばし、ほかの客たちを笑わせていた。それを、ピアニストが上品に微笑みながらフォローして、景に合わせて曲を繰り出す。ふたりは絶妙のコンビだった。
客席では、望月たちがあっけにとられていた。
「酒を飲んで性格が変わる人間は何人も見てきたけど、あんなに根アカになる男は始めて見たよ」
横から岩佐が言った。
「社長、彼は道を間違えたんじゃないですか?私には、研究者になるよりも、芸能界に入った方が成功するように思えるんですが」
「あれでも学会では注目されていた、優秀な研究者だよ」
と言って、望月はほかの新人たちに振り返った。「おい、きみたち、上原くんに負けずにおおいに歌いなさい」
新人ふたりは、もじもじした。
「遠慮しておきま
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