(2)
店を出たのは、深夜の1時近くになっていた。彼らは肩を組んで、堤防沿いの夜道を歩いていた。景がこんなに飲んだのは、生まれてはじめてだった。彼はすっかり陽気になって、コンクリートの擁壁の上に駆け上がった。その姿は、足取りがおぼつかなくて、いまにも堤防から川の中に落っこちそうだった。
「おい、上原くん、こっちに下りてこいよ。あぶないぞ」
「大丈夫だよ、おとうちゃん」
「おとうちゃん?」
坂本は歩きながら、青年を仰ぎ見た。彼は優しい声音で言った。「きみはそうとう酔ってるな。さあ、下に降りておいで。川に落っこちるぞ」
景が擁壁の途中で立ち止まった。
「おい、なにしてるんだよ。早く家に帰って寝るぞ」
「自然の要求ですよ」
景は川に向かって、勢いよく放尿しだした。
若者の手元から大きくはみ出た性器を目にして、坂本は一瞬ドキリとしたが、やれやれというように溜め息をついた。
「そんなところで小便してると、罰が当たるぞ。川に落っこちても知らないからな」
「大丈夫ですよ。ああ、すっきりした」
景は手の先を打ち振ってズボンに納めると、おおきく伸びをした。「さあて、坂本さんの豪邸に帰りますか」
景は先に進もうとして、コンクリートから突き出た鉄筋に足を取られた。
あっ!――彼はバランスをくずした。
「おい、気をつけろ!」
坂本が叫んだときには、若者の姿は暗闇の向こうに消えていた。そしてすぐ、水飛沫の音が聞こえてきた。
河合俊郎は憮然として、バスタオルを片手に、ベッドのわきに立っていた。
ベッドのシーツは、その上に横たわるずぶ濡れの若者によって、濡れた染みを作っている。娘婿の千秋は、もう一枚のバスタオルで、せっせと若者の濡れた体を拭いていた。
俊郎は千秋の背中に向かって、声をかけた。
「一体、その若いのはだれなんだい?」
千秋が作業をしながら応えた。
「店で知り合ったんです。気のいいやつですよ」
「店で知り合っただって!そんな男のために、75歳の老人を真夜中に叩き起こしたってわけか?」
「そうがみがみ噛みつかないでよ。私だって何も好きこのんで、この男の世話をしているんじゃないんだから。――あ、そっちのタオルを寄越して」
「まったく――お前はお人好しなんだから」
俊郎はタオルを娘婿に渡しながら、ぼやいた。
目を閉じた若者が、とてもハンサムな顔立ちだと気づいていた。小麦色に日焼けして、彫りの深い目鼻立ち。睫毛が長く、まるで外国の映画スターのようだ。
俊郎は気を失った若者を初めて見たとき、胸騒ぎにも似た熱いものが、体中に広がるのを感じていた。
「おい、この若いの、本当に大丈夫なのか?」
「息をしてるから大丈夫でしょう」
「息をしてるって――気絶してるじゃないか」
「ああ、おかげで、この大きな体を担いでくるのに、えらく苦労しました」
「わしが言ってるのはそんなことじゃない。頭の打ち所が悪かったらどうするんだ?」
「大丈夫。死にはしません。額を打っただけだから」
千秋は若者のベルトを緩めだした。
「さあ、お父さん。すけべ心を起さないためにも、部屋を出てください。それから傷薬をお願いしますよ」
俊郎が薬箱をもって部屋に戻ると、千秋は若者の濡れた衣類を両手に抱えていた。
「額の傷を手当してやってください。この子は明日、神戸に帰るらしい。私はこれから、濡れた服の洗濯をします」
千秋は部屋を出ていった。
俊郎はベッドのほうに振り返った。若い男は、全身をむきだしにしてベッドに横たわっている。股間には小さなタオルが載せられているだけ。
俊郎は生唾を飲み込んだ。彼は若者の傷の手当をしながら、胸中では、興奮と期待で複雑に揺れ動いていた。今、部屋の中にいるのは自分と若者だけだという事実が、彼をぞくぞくとした気持ちにさせていた。
(──もしもいま、この男の意識が戻ったらどうしよう?やあ、と何食わぬ顔で言うのか。それとも、ちょっと楽しいことしようか、と誘うか)
俊郎は傷の手当をおえると、じっくりと若者の体をながめた。スポーツでもやっているのか、引き締まった立派な体格をしている。そして彼の関心は、どうしても体の一点に戻ってしまう。タオルを押し上げたふくらみ、その下には――。
彼は学生時代、下宿先の先輩と同性愛を経験した。その後、同じ趣味を持つ男とも出会えず、男色行為も途絶えていた。
ひとり娘が結婚したとき、相手の男に心が動いたが、親子の道理はわきまえていた。娘夫婦は俊郎とひとつ屋根の下で生活したが、子供には恵まれなかった。そして、ひとり娘が病気で他界したとき、ついに娘婿をこの世界に引きずり込んだのだ。
以来10年近く、婿との関係は続いているが、最近は少々倦怠期に入っていた。そろそろ新たな刺激が必要だと思っていた矢先、絶好の教材が目の前に横たわっているのだ。
俊郎はちらっ
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