(2)

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望月が自宅を訪れて2週間後、景は『テクノ21』を訪問した。
新幹線で東京まで行き、電車を乗り継いで筑波まで行くと、社長の望月が直々に駅まで迎えに来ていた。
望月が人懐っこい笑顔で言った。
「やあ、ここまで来るのは大変だっただろう。今日はもう遅いから、これから夕食でもして、そのあと寮に連れていってあげよう」

翌朝、景は望月社長に案内されて、『テクノ21』の会社施設を見てまわった。
筑波学園都市は、区画整理された広い道路と緑の芝生の多い、まるで海外の風景をみているような街だった。会社は、その学園都市の北の外れにあった。敷地は広大だったが、工場自体は想像していたほど大きくはなかった。しかしすべてが機能的で清潔だった。
景は工場と研究棟、事務所棟と見てまわり、最後に望月の部屋に戻った。
「どうです?ご感想は」と望月が聞いた。
「とても機能的ですね。なによりも、無駄がないのがいい」
「おほめに預かって、光栄の至りです。ほかに何か質問はありますか?」
「社員のみなさんは、仕事の息抜きをどうされているのですか?」
「いい質問だ。人間、仕事ばかりじゃクリエイティブになれないからね。特に、ここのような物理的に浄化されたところではね」
望月は、我が意を得たり、と微笑んだ。「うちでは社員たちに、自分の趣味を持つことを勧めています。そのために、できる限りの援助もしている。おそらくうちの会社は、日本有数の趣味人の集まりになっているはずだよ。ゴルフ、釣り、ジャズバンド、絵画、書道、写真――数えだしたらきりがないくらいにね」
「囲碁をやる人はいますか?」と景が聞いた。
「もちろんだよ。工場長の中野くんが一番強い。5段だよ。実は私もやるが、ゴルフほどは芽がでない。きみもやるのかい?」
望月といると、会話はいつまでも尽きなかった。会社の主だった人たちにも紹介された。だれもが技術者らしい、穏和で真面目な性格の持ち主に思えた。
とくに研究所長の池田は、ちょっと話しただけだが、景の心を強く捉えた。71歳になる彼は、神戸にある大学付属の研究所に長年いたが、妻に先立たれたあと、望月に乞われてテクノ21に来ていた。望月と池田は高校同窓の間柄だった。
老人が神戸にいたと聞いて、景は嬉しくなった。英国紳士風のスマートな体型と、お坊ちゃん風の童顔は、どことなく神戸にいる祖父を思い出させた。
景は、まだ正式に返事をしていなかったが、心の中では、望月の会社に就職しようと決めていた。

その日の夕方、景は東京に着くと、父の会社を訪問した。父に会うのは何となく怖かった。あのざわめくような不思議な感情――景が初めて男色を経験した、スコット氏に対するのと似たような感情――それを押さえることができるのだろうか。
しかし、家を出るとき神戸の祖父母に強く言われていたので、会わざるを得なかった。
初対面のとき以来、父からは何度か手紙をもらっていた。それに景の誕生日には、いつもプレゼントを贈ってきた。
しかし景は、いつもそっけない儀礼的な手紙を返すだけだった。
6年ぶりに見る父は、白髪が増えて、少し太ったようだ。父の温顔を見ていると、胸の内がざわめいた。息苦しいほどだった。
嘉一はにこやかな笑顔で景を迎え、抱きかかえるようにして、ソファーのところに連れていった。
「きみは見違えるほど逞しくなったね。それに落ち着きがでてきた。陸上はまだやっているんだろう?」
向かいに腰を落ち着けると、嘉一が言った。
景が走っていることを、父が知っているのは分かっていた。優勝したときなど、父からの花束が届いていたからだ。しかし彼は黙って頭を下げた。それから、持ってきた紙袋を父に渡した。
「おばあちゃんが焼いたクッキーです」
嘉一は、いかにも嬉しそうに土産を受け取った。
「ところで、来年はいよいよ卒業だね」
景がうなずくと、嘉一は言った。
「きみは電子工学を学んでいるんだろう。どうだい、フジ電子に行かないか?」
「フジ電子といえば、超一流の企業ですね。どうもぼくの性に合いそうにありません」
「フジ電子は給料もいいし、社員の待遇もいい。それに何といっても、花形のハイテク企業じゃないか。実はそこの社長は、私と懇意なんだ。よかったら、私から頼んであげる」
「もう頼まれてるんでしょう?フジ電子から就職の勧誘を受けました。あれはあなたの紹介だったのでしょう?」
嘉一は、照れ笑いした。
「ばれたか。それでフジ電子に行く気はないのかい?」
「ありません。じつは、ある会社に入ろうと思っています。今日も、その会社を訪問してきたところです」
「ほう、どこだい?」
「テクノ21という筑波にあるベンチャー企業です。ぼくの書いた論文を、そこの社長がえらく気に入ってくれまして」
「しかし、ベンチャー企業といえば、浮き沈みが激しくて、不安
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