(2)

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屋敷の中に入ったとき、景は、室内の豪華さに再び圧倒された。
玄関ホールは広い吹き抜けになっていて、床には分厚いカーペットが敷かれ、高い天井からクリスタルのシャンデリアが、きらびやかな光を反射していた。
品のよい顔をした胡麻塩頭の初老男と、ふたりの若い女中たちが出迎えた。嘉一は彼らに鷹揚にうなずくと、景を伴って2階の客室に案内した。初老の男が一緒についてきた。
室内は、落ち着いた色調のインテリアでまとめられていた。大きなベッドと磨き上げられた書き物机、ソファー類が配置されている。この部屋だけでも、景の個室の3倍近くも広かった。
呆然とたたずむ息子に、嘉一が言った。
「ここがきみの部屋だ。落ち着いたら下に降りてきなさい、家族を紹介するから。あ、それから」
彼は後ろに従う初老の男を振り返った。「執事の栗原だ。栗原、こちらは――神戸から来られたお客さま。上原景さんだ」
執事は丁重に頭を下げた。やわらかく相手を受け止めるような雰囲気があった。
「栗原でございます。なにかご用がございましたら、何なりとお申しつけください」
「ありがとうございます。でもさしあたっては、なにもありません」
景は男に向かって、丁寧に返した。

執事が部屋を出て行ったあと、景は皮肉な調子で父に言った。
「ぼくは神戸からきた客ってわけですか。でもその方がいいな、気を遣わなくてすむ」
嘉一はきまり悪そうに言った。
「すまない。まだ彼らには、事情を話していないんだ。いずれ折りを見て、話そうとは思っているけど」
景は突き放すように言った。
「いいんです。その必要はありません。どうせぼくは、ここに住むつもりはないし――そんなこと、関係ないです」
「景くん、それはないだろう。きみは私の息子だよ。お母さんが亡くなった今、私がきみの面倒を見るのは当然だ」
「お気持ちは嬉しいんですが、その必要はありません。神戸には祖父母がいます。それに、経済的にも困っていませんから」
息子の冷たい口調に、嘉一は悲しそうな表情をした。それを見て、景はすこし良心がとがめたが、あえて父に質問した。
「ぼくのことは、家族の方たちにも話していないんですね?」
「いや、妻の淑子には以前から打ち明けている。子供たちにも、きみのお母さんのお葬式がすんだあとで話した」
「皆さんの反応はどうでしたか?」
嘉一は少し迷った表情をした。それがすべてを物語っていた。
景は、父親が答える前に、同情するように言った。
「あの、藤森さん、ほんとうに無理をしないでください。なんでしたら、ぼくは皆さんと会わずに、このまま帰りましょうか?」
嘉一が驚いて言った。
「何を言うんだ。淑子はきみに会いたがっている。あれは心の優しい女性だよ」

そのとき、ドアが突然開いた。20代前半の若者だった。背は高いが、痩せて、どことなく神経質そうだった。
「へーえ、おまえが親父の隠し子か?」
若者は、無遠慮に景を見ながら言った。
景の胸の内で、小さな怒りの炎が燃え上がったが、それを抑えて黙っていた。
嘉一がその若者に向かって、厳しくたしなめた。
「秀和、失礼なことを言うんじゃない!それに、ノックもせず部屋に入ってきて」
秀和は口元をゆがめて、照れ笑いを浮かべた。
「ごめん。悪気があって言ったんじゃない。それにしても、親父が英雄視してるだけあって、かっこいい子供じゃないか」
嘉一が、わずかにうろたえたそぶりを見せた。景の怪訝そうな表情を見て、秀和が説明した。
「おまえ、陸上競技で優勝トロフィーを何度も取ったんだろ。親父の部屋に行ってみろよ、おまえの記事の切り抜きがいっぱいあるぜ」
嘉一が叱った。
「秀和!おまえはコソドロのように、私の部屋に無断で入ったな!」
「いけねっ!」
秀和は、あわてて部屋を出ていった。
溜め息をつくと、嘉一は景のほうに向き直った。
「あれが長男の秀和だ。わがままで礼儀知らずだが、許しておくれ」
「いいんです。あなたが謝る必要はありません。彼も子供じゃないんだし、自分の行動には責任を持つべきです」
嘉一はまぶしそうに景を見た。
「――そうだね。じゃあ、私は下に降りてるから、きみもあとで来なさい」
そう言うと、彼は部屋を出ていった。

景はひとりきりになると、ベッドの上で仰向けになり目を閉じた。シーツは乾燥して、いい香りがした。
そのまま寝そべって、今日初めて会った父のことを思い浮かべた。母が愛しただけあって、思いやりのある優しい人だと思った。しかし、心の片隅では、まだわだかまりが残っていた。どういう事情があれ、父は母と自分を捨てたのだ。
それと同時に、戸惑いも覚えていた。東京で父と初めて会ったときに感じた、理解しがたい心のざわめき――。それは、何か秘密の領域に入り込んだような、性的な興奮の伴うものだった。
そのとき、家のど
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