(4)

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無力な老人を痛めつけるのは気が引けた。この老人はどことなく、藤森喜一郎に似ていた。しかし心を鬼にして、予定通りの行動をした。
彼は老人をベッドの上に押さえつけ、裸にして肛門に金属管を押し入れた。それから用意したガムテープで、老人の手足を縛りあげた。裸の老人は、幼児のようにひ弱で、はかなげだった。
高志はサイドテーブルを引き寄せると、その上に置き時計を乗せた。老人のほうから時計の針が見えるように、位置を調整した。
それからベッドの縁に腰掛けて、老人に話しかけた。
「根本がどうなったか知ってるな?あんたの尻にも同じものが入っている」
老人からはなんの反応もなかった。二重瞼のすきまから、水っぽい瞳が無表情にこちらを見ていた。
「覚悟はできているってわけだ。時計が見えるな?9時32分だ。花火はジャスト10時にセットしてある。つまりあと28分――おっと、話している間に27分になった」
高志は立ちあがった。彼が寝室から出て行こうとすると、初めて老人が口を開いた。
「わしになにも訊かんのか?」
高志は振り返ると、にやりと笑った。
「すべて根本が話した。なにもあんたに訊くことはない。それにどっちみち、おれが質問したところで、あんたは何もしゃべる積もりはないだろう?」
老人はかすかに笑った。
「すべて根本が話しただと?どうかな――」
「あんたは刑務所から命令を出して、藤森芳郎と司郎を殺させた。それから石川尚を拷問にかけて殺した。藤井頭取の孫娘も殺された。あんたの部下がもうちょっと利口だったら、石川の息子や記者の若林、それに藤森の次男坊も死んでいただろうな」
老人がつぶやいた。
「一郎の件は誤算だった。根本のバカが早とちりして――」
「万事があんたの思惑通りにはいかないさ。それに、あの失敗をしたのは根本じゃない、タツとか言う名の殺し屋だ」
そのとき、老人は奇妙な表情をした。老人はなにか言おうとして、思い止まったように口を閉ざした。
「それにしても、不正融資の口封じのために、むごい人殺しを重ねたものだな。それとも、あんたは、藤森家によほど深いうらみがあったのか?」
ふたたび老人の顔に、奇妙な表情がうかんだ。老人は、つぶやくように言った。
「お前は、そんなことのために、わしが動いたと思っているのか?わしたちが心配していたのは――」
「心配って何だ?」

高志が質問すると、老人は口を閉ざした。もはやこれ以上、老人は口を割りそうになかった。時計を見ると、9時45分を過ぎていた。彼は立ち上がると、老人を見下ろした。
彼の頭の中で、老人の言葉がかけめぐった。一郎の件は誤算だった――根本のバカが早とちりして――わしたちが心配していたのは――。
高志はハッとした。彼は口早に質問した。
「おれは藤森の次男坊と言ったのに、あんたは一郎と言ったな。名前を知っていたのか?誤算だったとは、どういうことだ?それにあんたは、わしたちと言ったな。ほかに黒幕がいるのか?」
老人は、眠っているかのように目を閉じて、沈黙した。
「おい、おれの質問に答えろ!」
高志は老人の体を揺すった。相手が強情に口を割らないのを見て、頬を叩いた。それでも老人はかたくなに沈黙を守った。彼は成すすべを無くして老人を見た。
時計を見ると、54分、時間がなかった。
高志は追求するのをあきらめて、寝室をあとにした。

寝室を出たところで、突然、首筋の後ろに衝撃を受け、高志は床につんのめった。
目の前が暗くなりかけたが、かろうじて踏みとどまった。顔をあげると、見知らぬ若い男が立っていた。
男は右手に、さきほど高志がテーブルに置いた拳銃を持ち、うすら笑いを浮かべていた。長身で、筋肉質のほっそりとした体、陰のある凄味をおびた美男子だった。高志は即座に悟った、こいつがタツと呼ばれる男だということを。
「立てよ。せっかくの男前がだいなしだぜ」
タツは冷たい口調で言った。
高志は立ち上がりながら、男の隙をうかがった。拳銃を握る男の手は、微動だにしなかった。
「かわいそうに。お前のせいで、ウタマロは女になっちまったぜ」
口元をゆがませて、タツが言った。
「それはよかった。これであのタコ坊主も、オイタができないってわけだ」
高志は首筋を揉みながら言った。彼は何気なく男のほうに近付いて、飛びかかるタイミングをはかった。
そのとき、タツは無造作に拳銃の引き金をしぼった。乾いた破裂音とともに、高志は腹部に衝撃を受けて床にひざまずいた。
タツはこともなげに言った。
「おや、狙いが狂っちまったぜ。おれはもうちょっと下のほうを狙ったつもりだったんだが。こんどはよく狙ってやる」
タツは、高志の股間に拳銃を向けた。

そのとき寝室から、岩井の叫び声が聞こえた。
「タツ!そこにおるのか?早く来い――早く!」
老人の切羽詰った叫び声に
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