(3)
翌日、タツはスキー服を着て、遠くから別荘を見張っていた。10時ちょうど、目的の男が女を伴って現れた。彼らは車の上にスキー板を積み、車を発進させた。
タツは少し遅れて、車のあとを追った。
スキー場では、タツもスキーをした。彼は標的となる若者たちを監視しながら、スキー場の地形を頭にいれていた。
彼はまだ迷っていた。別荘でやるのか、スキー場でやるのか。
別荘だと、家に忍び込まなければならないし、標的のほかに女や老いぼれの管理人も殺すはめになる。逆にスキー場だと、目撃者が多くなる。
若者たちのあとについて滑っているとき、タツは絶好の襲撃場所を見つけた。急傾斜コースの途中で平らな部分があり、彼らは必ずそこで停止して、後ろの仲間を待つのだ。
平らな部分の片端は谷に落ち込み、もう一方は雑木林になっている。木の影に潜み、射撃するのに絶好の場所だった。しかもそのコースは上級者だけが滑るコースだったので、スキーヤーも少なかった。
昼食のとき、タツは危険を冒して、二人の席に近寄った。彼のところから、若者たちの話し声が聞こえてきた。しばらくしてタツは、彼らが明日、東京に帰る前にもう一度スキーをすることを知った。それだけで充分だった。彼は車のトランクに隠している銃の手入れをするために、その日はそうそうにスキー場から立ち去った。
2日間は雲ひとつない好天気に恵まれたが、最終日は朝から雪が降っていた。一郎と蓉子はリフトを乗り継いでコースの最上部まで登ると、滑る前に山小屋の陰で小休止した。
一郎は壁に背を預け、寒さからかばうように蓉子を腕の中に抱いていた。蓉子と過ごしたふた晩は、一郎にとって生涯忘れられない歓喜の連続だった。
蓉子は最初ぎこちなかったが、2回目からは彼女本来の奔放さをとりもどし、一郎に合わせて弾むような肢体を、うねらせ、のたうたせて、性の喜びをあらわにした。
ふたりは何度もひとつに溶けあい、波に漂い、高いうねりに乗り、そして弾け飛んだ。
そしていま、一郎は彼女の体の感触に、身内にぞくぞくとする欲望が沸き立つのを覚えていた。彼はそっと蓉子にキスをした。
「蓉子、今日は吹雪いてるから、このひと滑りでやめようよ。東京に帰る前に、別荘できみとゆっくりしたいんだ」
蓉子は一郎の気持ちを汲み取って、返事のかわりに一郎の体にまわした腕に力を込めた。
「じゃあ、滑るか。雪が降ってるから気をつけるんだぞ。きみが足を折って、かついで帰るのはいやだからな」
蓉子がいたずらっぽく一郎をにらんで、スキー板を履いた。
蓉子が先に滑り、一郎がそのあとにつづいた。雪はさほどひどくなかったが、彼らは慎重に急傾斜を滑り下りていった。
いつものように、途中のフラットな中継点で立ち止まった。
蓉子は右足のスキー板を上げ下げしていた。それを見て、一郎が訊いた。
「どうしたんだい?」
「ううん、たいしたことないの。ちょっと板がぐらつくような気がしたもんだから」
「金具がゆるんだのかな。ちょっと見てあげよう」
一郎が屈みこんだときだった。なにかの破裂音と、蓉子のくぐもった声が同時に聞こえた。顔をあげると、蓉子がスローモーションのように、後ろに倒れるところだった。その喉から鮮血が噴き出していた。
「蓉子っ!」
一郎は蓉子に駆け寄った。
そのとき、ふたたび破裂音がして、左腕に激痛が走った。一郎はもんどりうって、雪の中に倒れ込んだ。彼は体をよじらせて、音のしたほうを見た。林の中で、長い銃をもった背の高い男がいた。ゴーグルをつけようとする、男の顔がちらりと見えた。
激しい怒りにかられ、一郎は男のほうに突進しようとした。とたん、スキー板に足をとられて転んだ。
男は少し迷ったようすだったが、ほかのスキーヤーが斜面を滑ってくるのを見て、あわててリュックに銃をつっこみ、林から出て滑り下りていった。
蓉子は血を流しながら、浅く息をしていた。鮮血が白い雪に滲みだし、赤い染みを広げていった。
「蓉子、しっかりしろ!死んじゃ駄目だ!蓉子!蓉子!」
異変に気づいて、他のスキーヤーたちがふたりのところにやってきたとき、一郎は蓉子の喉にハンカチを押しあて、激しく泣きじゃくっていた。
藤森喜一郎は上機嫌だった。早朝に蓼科の別荘に電話をかけたとき、管理人は報告した。若さまは、そのう――お嬢さまとご一緒の部屋で休まれている、と。
(一郎も隅に置けん奴だ)
喜一郎はにんまりした。これで彼の思惑通りに、藤井とがっちり手が組める。
昼前に、蓼科の管理人から、喜一郎あてに電話があった。受話器をとると、取り乱した管理人の声が響いた。
「大旦那さま、若さまが――」
管理人は泣いていて、要領を得なかった。
「バカ、しっかりしろ!一郎がどうしたって?」
急に不安感が込み上げてきた。受話器をもつ喜一郎の手が震えだした。その彼
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