(3)

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根本とは、数え切れないほど交合してきたにもかかわらず、加代はいつも嫌悪感をぬぐい切れなかった。ただパトロンに対する義務感だけで体を与えつづけていた。
その晩の根本は、様子が違っていた。いつもは、すぐ彼女の股座に突っ込んでくるのに、今日はどこか醒めた顔つきで、ウィスキーを飲んでいた。
「あまりその気にならないみたいね」
佳代が揶揄するように言うと、根本がほくそ笑んだ。
「あの老いぼれのサツとやったときは、どうだった。はめさせたんだろう?」
加代が怒って言った。
「あんたが命令したんじゃないの。あの男に近づけって」
「あのサツ、よほど良かったようだな。だいぶ、ご執心のようじゃないか」
「あなた、なに言ってるの!」
「ふん、まあいい。それで、もうひとりの老いぼれは、うまくいってるのか?」
加代は、根本がフジモリの依田常務のことを言っているのに気づいた。
「全く連絡なしよ。それに、お店にも来ないわ」

根本は、その答えを予期していたようだった。彼は脇のテーブルの上から、小さな銀色の平たい容器を取った。そして蓋を開けた。中には白い粉が入っている。彼は指先を舐めて湿らすと、指に粉末をたっぷりとまぶしつけた。それから、加代をベッドの上で組み敷いて、いやらしく笑った。
「さて、お祭りの時間だ」
ふいに、2本の指が彼女の体内に突っ込まれた。
とたん、彼女の局部は焼けつくような快感に燃え上がった。男の指がピストン運動を始めた。加代は男の手の下で身悶えし、悲鳴を上げた。
「お前とは、よく飽きもせずやりまくったもんだな。今夜は、一生忘れられない思い出をつくってやる」
根本は加代の足を大きく開かせ、一直線に突き入れてきた。彼女は息を詰まらせた。男の目は狂喜じみて、ぎらぎらと輝いていた。体中が感覚のかたまりになったようだった。激しく打ち込んでくる男の動きに、彼女はむせび泣き、もだえた。
あとは、何もかも分からなくなった。ただ覚えているのは、大きなうねりとともに、激しく痙攣を繰り返したことだった。
根本が離れたあとも、彼女の内部は熱く燃え上がっていた。ぐったりとしてベッドに横たわる彼女の耳に、根本の声が聞こえてきた。
「いいか、明日、石川に電話をかけて、お前の部屋に呼ぶんだ。息子のことで分かったことがある、夜の12時に来いとな」

女から電話があったとき、石川尚は、何かあったのを感じた。女の声には、明らかに緊張したものがあった。
夜のタクシーをつかまえ、女のアパートに向かっているとき、ふとこの前の情事を思い浮かべた。すっかり縁が切れたと思っていた女体との交接。彼は腰回りが疼いてくるのを覚えた。
女のアパートに行き、チャイムを押した。誰も出てこなかった。ドアを確かめると、鍵はかかっていなかった。
尚はちょっとためらい、それから部屋の中に入った。誰もいなかった。
その時、後頭部に衝撃を感じ、前のめりに倒れた。床のカーペットが目の前に迫ってきて、すぐ暗闇にのみこまれた。

石川尚は、両腕を背後で固定され、体をくの字に曲げて横たわっていた。丸くふくらんだ腹が微かに起伏し、彼が少なくとも生きているのがわかる。
部屋の中は薄暗かった。壁の一面にある窓には厚いカーテンが引かれ、ベッドの脇にあるふたつのスタンドが、ぼんやりと黄色の光を投げかけている。
薄闇にふたりの男が立っていた。ひとりは小柄な白髪の老人だった。ゆるんだ目蓋のすき間から、色素の薄い茶色の目が、床に横たわる石川を無表情に見下ろしていた。
その横にいる男は、背の高い立派な体格をしていた。年は30歳くらい、黒のランニングシャツと、下半身にピッチリと貼りついた黒のスラックスを身につけていた。

石川尚がくぐもった呻き声を上げ、ようやく意識を取り戻した。彼は自分の状況に気づいた。上着と靴が脱がされていた。両手は背後に回され、粘着テープで固定されている。
老人が近づいた。尚はそばに立つ男を見上げたが、その目は焦点が定まらなかった。ようやく老人を認め、唇が震えだした。暴力団組織、岩井組の会長に気づいたのだ。
岩井は、床に横たわる男を見下ろしながら考えていた。このサツから聞き出すためには、少々痛い思いをさせ、屈辱を味あわせる必要がある。
老人は振り返って、若い男にあごをしゃくった。
「タツ、仕事だ」
若い男は唇をひんまげ、その端正な顔が期待に打ち震えた。目が病的に輝いていた。
タツは筋肉質の腕を伸ばすと、石川の肉づきのよい体を軽がると引き起こし、背もたれのある頑丈な木の椅子のところに引きずっていった。

生け贄を椅子に持たせかけると、男は張りのある声で話しかけた。
「心配するな。お前の知ってることを話せば、なにも痛い思いをすることはない」
石川は、タツと呼ばれる男に本能的な恐怖を覚えた。長身で凄味のある美男子。
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