(1)
出張から戻ってきた高志は、一郎から若林博見を救出したときの模様を聞いた。
高志の考えていた温厚な一郎にしては、信じられないような行動だった。彼は厳しく一郎を非難した。
「なんできみは警察に任せなかったんだ。たまたま、救出できたから良かったものの、きみは大変な危険を冒したんだぞ」
一郎もめずらしく声を荒げた。
「だって、相手は国会議員ですよ。警察が信じてくれると思いますか?ぐずぐずしてると、ヒロやんは別のところに移されたかもしれない」
「石川さんがいただろう?」
「石川さんには連絡がつかなかった。彼の息子さんもまだ行方不明なんです」
「――」
高志は黙って一郎の顔を見た。
藤森伸郎が死んで2年も経たないうちに、藤森家の人間がふたり、相次いで死んだ。そしてまた、調査に首を突っ込んだ、若林博見の誘拐事件があった。それに事件と関係があるかどうかは分からないが、石川聡が行方不明になり、岩井組を調べていた石川はそれどころでなくなった。
高志は、暗黒組織の魔手が迫っているのを、ひしひしと感じた。
(このままだと、次に狙われるのは、藤森一郎だ)
彼は口に出しては言えない、腹違いの弟の身を案じた。一郎は名門の出にしては珍しく、飾り気のないまっすぐな性格をしている。これまで、あまりつき合いはなかったが、彼は一郎を弟として誇りに思っていた。そして彼は、一郎のために思い切った行動にでる覚悟を決めていた。
高志は一郎に言った。
「一郎くん、きみはこれ以上、動くんじゃない。次に狙われそうなのはきみだぞ。気をつけるんだ。あとはぼくがやる」
「荒川さん、何をやるつもりなんですか?」
「きみは知らないほうがいい。それから、ぼくが刑務所に入っても驚かないように」
「刑務所?」
一郎の問いかけに、高志は静かにうなずいた。
荒川高志は、革ジャンパーにジーンズという姿で、池袋をうろついていた。時刻はすでに夜の12時を過ぎていたが、人通りはますます増えていた。まわりからは、人種のるつぼのように、日本語に混じって外国の言語が飛び交っている。
彼はできるだけ、いかがわしい界隈を選んで歩いた。
怪しげな店の立ち並ぶ裏手の、小さな公園の横の道を歩いているとき、手頃な男たちを見つけた。髪を茶色に染めた若い男がふたり、通りがかりの水商売らしいふたりの女にからんでいた。
高志は、彼らの横を通るとき、わざとひとりの男に肩をぶつけた。その男が大きくよろめいた。
高志が黙って通り過ぎようとすると、細い目をいからして男がわめいた。
「なんだ、この野郎!人にぶつかっておいて」
高志はゆっくりと振り向いた。
「何かあったのか?」
「なんだとお、このトンチキ野郎!」
男たちがなぐりかかってきた。高志はサイドステップして、男の攻撃を受け流すと、最初の男のあごに、右のストレートをたたき込んだ。ついで、もうひとりの男に擦り寄りざま、右肘を相手の顔面にぶち当てた。
すべてはアッという間の出来事だった。男たちにからまれていた女たちは、とっくに逃げていた。
そのあと高志は、倒れた男たちをひとりずつ引き上げて、徹底的に痛めつけだした。数分後には、男たちは完全に戦意を喪失していた。
最後に高志は、服についた返り血を点検しながら、息も絶え絶えの男たちに言った。
「おや、きたねえ。せっかくの革ジャンに血がついたじゃねえか。クリーニング代をよこしな」
彼は、ぐったりとして地面にうずくまる男たちのポケットから、財布を取り出した。
ちょうどその時、騒ぎを聞きつけたふたりの警官が駆けつけた。
高志は池袋署に拘留され、数日後には簡易裁判所に連れていかれた。
裁判官は、窃盗傷害の罪で、高志に一カ月の懲役刑を宣告した。被告人が反省の色をまったく見せず、裁判官の心証を悪くした結果だった。
――◇――
「さあて、ストリップ・ショーをおっぱじめるか。お前たち、さっさとしろよ」
丸顔で肉付きのいい体つきをした中年の看守が、命令した。胸の名札には、馬場と書かれている。
無機質な部屋の中だった。目に映るのは、灰色のコンクリート壁と衣類を入れる青いプラスチックの籠だけ。荒川高志のほかには、60代の小柄な老人と50前後の中年男のふたりがいる。
高志はジャンパー、シャツ、ジーパン、靴を脱ぎ、パンツから足を抜くと、振り返って、馬場と言う名の看守と向かい合った。馬場は興味をそそられたように、高志の体をじろじろと見ている。
高志がにらみつけると、彼は目を逸らした。ドアの横では、浅黒い肌をした若い看守が、無表情にこちらを見ている。中年男はすでに服を脱ぎ終えていたが、老人はまだもたもたしていた。
「こら、早く脱ぐんだ!」
看守が声をあげた。
そのあと、身体検査がはじまった。口の中、髪の毛、両腕、足の裏、看守は無遠慮に一郎の体を触った。そのあ
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