(1)
西本加代は貧しい家庭に育った。父親は左官職人だったが、無類の酒好きで、働いているより飲んだくれている方が多かった。加代の母は、そんな亭主にとっくに見切りをつけて、ほかの男と駆け落ちした。
加代は16歳のとき、町の有力者によって女にされた。父親に言われて、旦那の屋敷に行ったときのことだった。
その旦那は頭の禿げ上がった50男で、ずんぐりとして背は低く、見るからに好色そうだった。
旦那は加代を寝室につれていくと、待ち兼ねたように下卑た笑いを浮かべて、加代の服を脱がしだした。そこで初めて彼女は、父親の裏切りに気づいた。しかし後の祭だった。
「きれいな体をしてるじゃないか」
早くも息を荒げながら、旦那は加代をベッドに押し倒した。
加代は抵抗しなかった。横たわったまま、身動きもしなければ表情も変えなかった。旦那は焦って服を脱ぐと、仰向けになった加代の上にのしかかった。
体の中心部に鋭い痛みが走ったが、彼女は歯を食いしばって旦那の顔を見ていた。豚のような目をした顔が、欲望に赤らんでいる。だらしなく開けた口からは、歓喜の喘ぎが絶え間なく洩れ出ていた。
加代は父を憎んだが、奇妙なことに、旦那に対してはなにも感じなかった。むしろ旦那を理解した。男は好きな相手でなくてもやりたがるんだ。そう思うと、彼女は自分の生きる道を見つけたような気がした。
彼女は次の日、父親に黙って家を飛び出し、東京に向った。テレビで見た東京の街にあこがれていたのだ。
しかし、大都会の生活は、加代が想像していたほど甘くはなかった。年齢を偽って就職したのは、大きなホステスクラブだった。中年のクラブ経営者は、雇用を条件に、その日のうちに彼女の足を開かせて、のしかかってきた。
初々しく、それでいて妙に男心をそそる彼女の容貌は、年配の客たちの人気を独り占めにした。それだけに同僚のホステスたちの陰湿ないじめにもあった。
しかし彼女は耐えた。ひたすら金のために――。
客たちの多くは、彼女の父親よりも年取っていて、太り気味だった。けれど、それらの客と彼女の父親とのあいだには、大きな違いがあった。彼らには、立派な服装をするだけの金があったのだ。
彼女は自分の武器をじょじょに発揮して、金持ちの男たちに浸透していった。
根本との出会いは、彼女の生活を一変させた。この体格のよい男は、いつも自分の持ち物を自慢していた。彼は自慢の持ち物を小柄な加代の体に突っ込むと、すっかり彼女が気に入った。
加代は根本の囲い者になり、ついには自分の経営するクラブを持つ身分になった。あとで知ったのだが、根本は暴力団の組長だった。しかし彼女には、相手が自分に金をもたらす男なら、そんなことはどうでもよかった。
加代が根本のために最初の仕事をしたのは、顧客が増え、経営するクラブが軌道に乗ったころだった。
根本の指示は、ある男と寝て、彼女に夢中になるようにしろ、ということだった。目的の男は、それまでも彼女の店のなじみ客だった。
彼女にとって、命令された仕事は楽なことだった。と言うのも、当の男はもともと彼女にぞっこん惚れこんでいたのだ。
依田は、スマートな体型をした60前後の紳士で、上品で繊細な顔に、いつも穏やかな笑みをうかべていた。彼は会社の重役をしており、経理畑出身者らしく、几帳面で控え目な性格をしていた。
依田にたいして、加代はくったくのない開放的な態度で接した。内向的な依田が加代に魅かれるのは、当然の成り行きだった。
あるとき、依田がコンサートのチケットを取り出して、だれか興味があったらあげる、と軽い調子で言った。加代は無邪気に喜んで、チケットをいただくだけじゃなく、一緒に連れていってとおねだりした。ほかの連れがいたので、依田はどぎまぎしたが、その顔は満更でもないようすだった。
つぎの土曜日の夜、ふたりは待ち合わせをして、コンサートにでかけた。依田は若い女性とのデートに、うぶな若者のように落ち着きがなかった。加代は無邪気にふるまって、この保守的な初老の男の固さをときほぐしてやった。
薄暗い会場の席に座ったとき、彼女は何気なく年配者の太腿の上に手を置いた。依田が息を詰めるのが、気配で読み取れた。
コンサートが終わり、依田は加代をアパートまで送ってくれた。
「ちょっと寄っていきません?」
彼女は依田を誘った。
依田はその晩、結婚して以降初めて、ほかの女と浮気した。
加代はもてる技術を駆使して、男につくした。初老の男は、彼女の指や口の奉仕に、全身をふるわせて悦んだ。彼は忘れかけていた雄の本能をとりもどし、ついには彼女のしなやかな体にのしかかって、深い悦楽のあえぎ声をあげたのであった。
その夜を境に、依田はすっかり加代のとりこになった。ながめるだけの胸に秘めた想いから、肉の交わりによる恋に変ったのだ。
加代は
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