(4)
「よう、おふたりさん。高知で一緒になったって?なんやふたりして、幸せそうな顔をしてるやないか」
顔を合わせるなり、医師の太田がにやにや笑いを浮かべて、話しかけてきた。
伊藤が言い返した。
「そういうケイちゃんやて、幸せそうな顔をしてるやないか。なにかよっぽどいいことでもあったんとちゃう」
「ふん、その言葉はそっくり、お前さんたちに返してやる。それで、お前さんたち、デキたんやろ?」
「デキたって、なにが?」
「またまた、とぼけおって。ぽっちゃりしたお尻のお父ちゃんと、ヤリたい盛りの若いのが一緒にいれば――わざわざ言わんでもわかるやろうが」
「また、ばかなことを――」
伊藤が顔を赤らめた。
「おや、お父ちゃん、やらなかったのか?わしやったら、このクリッと締まった尻をほってはおかんけどな」
太田は無遠慮に、一郎の臀部を撫でまわした。
一郎も負けてはいなかった。
「ぼくも先生の、ぽってりとしてやわらかいお尻が大好きです」
「ぼく、あまり年寄りをからかうんやないぞ、本気にするからな。なんやったら、わしの尻を貸してやろか」
「ありがとうございます。では今夜あたり、お願いします」
「ぼく、けっこう言うようになったやないか。高知で伊藤のお父ちゃんに、だいぶ鍛えられたらしいな」
神戸に戻ると、藤森一郎のいつもの生活が始まった。大学の授業とアルバイト、そして年配の男たちとのひとときの交流。
医師の太田は、あいかわらず下ネタのジョークを飛ばし、学者の池田は少年のようにさわやかだ。そして伊藤とは、胸につかえていたものを高知で話してから、すっかり親近感が増していた。
一郎は考えた末、伊藤の家に同居することにした。
その家は、ひとり住まいには、たしかに広すぎた。1階には広いリビング、ダイニングとキッチン、それに書斎にしている和室。2階には洋室2部屋と6畳の和室があった。
共同生活は順調だった。料理は伊藤が受け持ち、一郎は掃除と洗濯の当番をした。
暗黙の了解で、ふたりはお互いの生活に干渉しないようにしていた。
早朝、一緒にゴルフ練習場に行くことと、夜、リビングでのくつろいだひととき、それがふたりの共有する時間だった。それ以外は、それぞれの独立した生活を送っていた。
ある日、彼らの住まいに、小柄な老人がたずねてきた。
一郎は不在だったので、伊藤が応対した。男は北沢と名乗った。以前、若者に聞いていたので、伊藤はその訪問者が誰であるか、すぐに分かった。一郎の幼少時からの世話係の爺やだった。
年の頃は伊藤より5つほど上だろうか?伊藤は背の低いほうだったが、北沢はもっと低かった。おそらく150センチほどだろう。ふっくらとした肉づきのよい体と、地肌の透けてみえる薄い白髪、色の白い幅広の顔――メガネの奥で小さな目が、やさしく輝いている。見ていて微笑ましいほど、かわいらしい感じの老人だった。
伊藤は、とりあえず北沢を家の中に入れ、若者が帰ってくるのを待たせた。小さい老人は、そのかわいらしい見かけに反して、えらく無愛想だった。伊藤が気を使って話しかけても、あまり話に乗ってこない。その上、伊藤をまるで、ライバルであるかのような目つきでにらみつける。
とうとう伊藤は、小男をほったらかして、テレビを見ることにした。
玄関先で若者の帰ってきた物音が聞こえると、小男の顔がにわかに明るくなった。老人はそそくさと立ち上がり、玄関のほうに出迎えにいった。
「なんだ、爺、来てたのか」若者の声につづいて、「若さま――」と言う老人の声がした。そのあと、静かになった。
伊藤が玄関のほうに行くと、父親にしがみつく子供のように、老人が若者に抱きついていた。その肩がかすかに震え、若者は老人の背中を優しくさすっている。
感動的なシーンだが、どことなく愛嬌のある姿でもあった。
げんきんなもので、小さな老人は涙がおさまると、家の中をわがもの顔に歩き回り、かいがいしく立ち働きだした。風呂に湯を入れ、食事の支度をする。
伊藤が手伝おうとすると、小男は無愛想に伊藤の手を払いのけ、彼の存在を完全に無視して料理をつづける。
こんどは、伊藤が憮然とする番だった。一郎のほうを見ると、若者は困った表情をして肩をすくめた。
「爺、みんな変わりないか?」
一郎は、爺と水入らずのひとときを過ごしていた。部屋は他にもあったが、あいにく寝具に余裕がなく、とりあえず自分の部屋に爺を泊めることにしたのだ。
「ええ、みなさまお変わりございません」
北沢は神妙に答えた。
一郎は老人の顔を黙って見ていたが、唐突にきいた。
「爺、何があったのだ?」
「突然なんですか、若さま?――なにもございませんよ」
北沢は、さりげない口調で言ったが、かすかに動揺がみてとれた。
一郎は、老人を観察した。しばらく見ぬまに太ったようだ。小柄な体だが
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