(1)
ゴルフの打ちっ放し場に、3人の年配者たちが集まっていた。彼らはひと箱打ち終えたところで小休止して、ひとときの会話を楽しんでいた。
3人3様のスタイルだが、どことなく共通点があった。着ている衣服は趣味がよく、会話のとちゅうで見せるしぐさは、豊かな者がもつ鷹揚さがあった。彼らはゴルフ好きという共通の趣味で、いつしか交流を温めていた。
伊藤英之は、人望厚く誠実な性格をして、仲間内ではいつもまとめ役的存在だった。眼鏡の奥の瞳は、いかにも優しそうに輝いているが、企業の役員だけに、温厚だが時に厳しい一面もみせるときがある。
20歳の一人息子を交通事故で亡くし、そのショックで妻も病死したとき、家族思いの彼は、一時期、魂の抜け殻のようになっていた。彼が立ち直るきっかけを得たのは、人に言えない男色の世界を知ってからだった。
太田敬一は、同世代の男たちに比べると大柄な体格をしていた。短く刈った頭髪は真っ白で、時にいたずらっぽく輝く象のようにやさしい目と、大造りの鼻と口――彼の顔には、呑気といたずら坊主が同居していた。
体つきだけでなく声も大きかった。おおらかで細事に拘泥しない性格とあいまって、元気のいい爺さんそのままだ。彼は3人の中でいちばんの年長者で、院長の座は娘婿にゆずっていたが、まだ現役の内科医をやっていた。
池田文彦は、育ちのよい世間知らずの少年が、そのまま年をとったような男だった。血色の良い小さな童顔とスマートな体型は、さながら英国紳士をおもわせる。優秀な電子物理学者で、いまは大学付属の研究所の所長をしていた。
そんな地位までのぼりつめた男にしては、驚くほど純朴で、童顔の見かけそのままに、素直な性格をしている。
「ケイちゃん、今日は調子がいまひとつのようだな」
伊藤が太田に向って言った。
太田が鼻を鳴らした。
「ふん、あんたに比べれば、ましなほうや」
「憎らしいことを言うね。私にたいする嫌みかい?」
「わしは事実を言ったまでや。あんたはせいぜいふんばっても、200ヤードに届かん。その点わしは、調子が悪くても、200ヤードは飛ばしてる」
「まっすぐ飛べばね」
池田が横からおっとりと言った。そこで、太田ににらまれて、肩をすくめた。
「ふん、坊やも一人前に、嫌みを言うようになったか――。ところでお前さんたち、近頃自分が女に近づいてきたって、感じたことがあるか?」
少し先の打席にいる、年配の肥えた男の大きな尻をぼんやりと眺めながら、太田がつぶやいた。
太田の視線の先を追っていた池田が、けげんそうに友人の顔を見た。
「女に近づくって、ケイちゃんの色気もまだまだ健在やね」
「違うんや。わしが言うとんのは、自分が女になってきてると言うことや」
伊藤は、太田が例によってまた下話をしようとしているのに気づき、ニヤリとした。彼はとぼけて聞いた。
「ケイちゃん、あんたが何を言ってんのか、さっぱりわからんわ」
「わからん?じゃあ説明しよう」
太田は前に身を乗り出して、ふたりの顔を見回した。そして、医者らしい専門的な言葉を交え、仲間うちの口調で話しはじめた。
「いいか、男の性染色体はXY型、そして女はXX型や。旧約聖書では神様が男の肋骨から女を作ったなんて書いてあるが、科学的にはその逆だ。最初に女ありき、なんだ。その証拠に、胎児は途中まで全て女だ。その後、XY型なら男の体に変化する。ここまでは分かったな?」
太田はふたりの顔を見回した。
「で、わしは考えた。Xは女要素、Yは男要素だと。そうなると、男のXY型は男と女の両要素を持っている。いわば男性ホルモンと女性ホルモンを持ってると言うことだ。
いいか、ここからが本題だ。男はフケになれば男性ホルモンが衰退する。ところが女性ホルモンは健在だ。だからわしらは、女に近づいていると言うことだ」
太田は丸っこい肩をすくめた。「そのことは、触ってみればすぐ分かる」
「何を触ってみるって?」と伊藤。
「肛門だよ」
太田は自分の股間を見下ろした。「風呂に入ったとき、肛門を触ってみろ。石鹸を指の先につけて、やさしく触るんだ。快感を覚えるはずだ。ちょうど女が勃起した男のモノを欲しがるようにな」
池田が不浄なものを見るような目つきで、太田を見た。一方、伊藤はすでに男を知っているだけに、微妙な表情をしていた。
「もっとも指と男のモノじゃ、太さが全然違う。本物を受け入れるとしたら、かなりの痛みを伴うはずや。でもな、わしは興味がある。チンポがまともに立たんようなって、性の悦びをあきらめていたときに、別の可能性を見つけたんや。男を迎え入れたら、どんな気分なんやろうって」
60過ぎの老人が、昼日中にもかかわらず、女になることの興味を話す。それでいて、およそ男色とは無縁に見える、でっぷりと太った太田の姿は、どことなく愛嬌があった。
「
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