(2)
暗黒の世界が広がっていた。
ふたりはしばらくの間、赤と黒の不気味な光景に見とれていた。
空は赤みがかった灰色で、太陽の姿はなかった。その下に、鋭角的に尖った黒い山々が連なっていた。草木一本なく、目にうつるのは岩だらけの光景だった。
ウータンたちのいるところから、一本の道が山に向かって伸びていた。その両側は切り立った崖で、深い谷間には真っ赤な溶岩が流れていた。白熱したドロドロの液体が、あちこちで噴きあげていた。先ほど通路から見た赤い光は、溶岩の放射する明かりだった。
気を取り直して、ウータンはユーミンのほうに振り向いた。
「ユーミン、出発するよ」
ウータンが声をかけると、ユーミンが覚悟を決めた顔で、きっぱりとうなずいた。
ふたりは岩だらけの荒涼とした道を歩きだした。風が吹いて、熱気が下から吹きあげてきた。思わずのけぞるほど熱かった。
「ウータン、見て!」
ユーミンがふいに立ち止まって、鋭く言った。
右手の空に、灰色の生き物が飛んでいた。巨大なコウモリのような翼を羽ばたかせて、長いしっぽが波打っていた。
「ドラゴンだ!」
ウータンが叫んだ。
ふたりはついに、伝説の生き物だと言われていたドラゴンを、現実に目の当たりにしたのだ。ふたりの見ている前で、ドラゴンの姿が大きくなってきた。空を切る羽ばたきの音が聞こえてきた。
「ユーミン、ぼくの後ろに隠れて!」
ウータンは体の前に盾をかまえながら叫んだ。ユーミンがすかさずウータンの背後にしがみついた。
(本当にドラゴンの炎を防いでくれるんだろうな)
ウータンは前に構えた盾にたいして、若干不安になってきた。
ドラゴンはこちらに向かってまっすぐ飛んでいたが、途中で下の方に急降下して、姿を隠した。
右の谷間の向こうにそびえ立つ、山のあいだに降りたようだ。
ふたりはしばらくぼう然として、その場に突っ立っていた。
ドラゴンは想像以上に巨大だった。遠くから見ただけでも、獰猛な力が伝わってきた。今まで戦ってきた怪物たちとは比べものにならない、けた違いのパワーを感じた。
そのドラゴンと、ふたりきりで戦わなければならないのだ。
それに、もうひとつ問題があった。ドラゴンの降り立った山へ行くには、谷間の溶岩を越えなければならない。
ふたりは気を取り直して、先への道を進んだ。途中で斜めに谷の方に降りていく枝道があった。彼らはそちらのほうに進んだ。
谷間に降りていくにつれ、熱気が激しくなった。近くで見る溶岩は、グツグツと沸きたっていた。ちょっとでも足を踏みはずせば、一瞬のうちに燃え尽きてしまうだろう。
向こう岸にも、上に登る同じような道が見えた。ところが両方の道は、真っ赤な溶岩流でさえぎられているのだ。
ウータンは途中で立ち止まると、ユーミンに向かって言った。
「ユーミン、だめだ。この道は溶岩でとぎれている」
ふたりが引き返そうとしたときだった。
谷間の上流で、ゴロゴロッと地鳴りのような音がした。
「ウータン、あれを見て!」
ユーミンが、向こう岸の上流を指さした。
崖が揺れ動き、岩肌に数本の亀裂が走っていた。見ているうちにも、亀裂はどんどん大きくなった。
次の瞬間、ドーンと音がして、一本の亀裂から水が噴き出した。ものすごい量の水だ。それに誘発されたように、ほかの亀裂からも、つぎつぎに水が噴き出した。
ドーン――ドーン――。音がこだました。
水が溶岩に接触して、水蒸気が立ち昇った。水が蒸発するシューシューという音が聞こえてきた。
岩盤から噴出する大量の水が、溶岩に注がれつづけた。もうもうとした水蒸気の中で、赤い溶岩の色がどす黒く変わり、ついで灰色になっていった。
水の流れ落ちたところから、灰色の輪が広がった。
熱気を帯びた水蒸気が、ウータンたちのいるところまで広がってきた。ふたりは熱い蒸気にむせながら、溶岩流の変化を見守った。
滝のように流れ落ちる水によって、溶岩が固まりだした。その上を大量の水が流れ、下流の溶岩に接触して水蒸気となった。
水の奔流は1時間ほどつづいて、ようやく細くなった。
そのころには、ウータンたちのいる足下の全面が、ぶつぶつと小穴のできた灰色の岩盤に変わっていた。その岩盤のいたるところから、湯気がたちのぼっていた。
それを見て、ウータンが言った。
「あの上を通って向こう岸に渡れるかもしれない。ユーミン、下に降りてみよう」
下まで降りると、ウータンは恐る恐る足を伸ばして、湯気の立つ岩盤に触れてみた。
(固まった部分が薄かったら、割れてしまう)
ウータンは額に汗を浮かべて、爪先にそっと力を入れて地盤を押してみた。どうやら大丈夫のようだ。彼は思い切って体重を乗せた。
足もとは熱かったが、岩盤は彼の体重に耐えた。
そのときユーミンが、切迫した声で言った。
「ウータン、急がないと溶岩が――」
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[*]
感想