第13章 失われた時の国
(1)
階段は延々と下へ向かっていた。
ハーブとユーミンそしてサキの3人は、息を弾ませて階段を降りつづけた。
そのうちサキがぶつくさ言いだした。
「一体、どこまでつづいているの。もう膝がガクガク」
ハーブがあえぎながら言った。
「なんじゃ、若いのにだらしない。もうすぐじゃ、がんばれ」
「ウータンたち、大丈夫かなあ?」
階段を降りながら、ユーミンが心配そうに言った。
「大丈夫だよ、ユーミン。あのふたりは馬のように頑丈だから」
サキが楽天的に言った。
ユーミンは胸騒ぎがしていた。でもそれを言うと、ほかのふたりに余計な心配をさせてしまう。彼は胸騒ぎを抑えて先へと進んだ。
ようやく地下の『時の間』についた。
両開きの大きな鉄製の扉が立ちはだかっていた。まるで中に入るのを拒んでいるかのように、いかめしい扉だった。その表面には奇妙な文様が刻まれていた。大きな円の中に無数の直線が引かれ、見るからに複雑な図柄だった。
サキがさっそく鍵開けの道具をとりだして、扉の鍵穴にとりついた。彼はあれこれと道具を試しながら、作業に集中した。
ハーブが後ろから聞いた。
「どうした、サキ。開かないのか?」
「ちょっと黙って。集中してるんだから――」
サキはぶつくさ言いながら、手を動かしつづけた。しかし扉は、なかなか開かなかった。
時は刻々と過ぎていった。サキがあきらめかけたとき、背後から子供の声が聞こえてきた。
「この鍵を使わないと、そのドアは開かないよ」
ギョッとして3人は振り返った。
小さな男の子が、大きな鍵をかざして立っていた。
「アロイ?アロイじゃないか。どうしてここに?」
ユーミンが、男の子のもとに駆け寄った。
「この鍵を使って、そのドアを開けたことがあるんだ」
アロイは鍵を差し出して、無邪気に言った。
サキが鍵を受け取って、鍵穴に差し込んだ。カチリと音がして、扉はいとも簡単に開いた。
ハーブが子供を見ながら言った。
「サキの鍵開け道具もあまり当てにならないな。ところでその子は、この前、船に乗っていた子だな。いったいどこから来たんだ?」
アロイがハーブを見あげた。「ぼくはこのお城に住んでいるんだよ」
ユーミンはふと思い当たった。
「じゃあ、アロイはこのお城の王子さま――?」
アロイがこくりとうなずいた。
「この部屋の中に入ったことがあるの?」
サキが期待を込めて、アロイにたずねた。
「あるよ。でも中には何もないよ」
アロイの返事に、サキが残念そうな顔をした。
「とにかく部屋に入ってみよう。なにか『失われた時の国』に関する手掛かりがあるかも知れん」
ハーブが扉を引き開けて言った。
部屋の中は、家具ひとつないがらんどうだった。
唯一、床の中央に奇妙な文様が刻まれていた。扉にあった文様に似ていたが、もっと複雑だった。
3人は、壁のあちこちを叩いて、なにか隠し扉はないかと探しまわった。
しかし、なんの手掛かりも見つけられなかった。
「うわあっ!」
ふいにサキの悲鳴が聞こえた。
振り返ったユーミンとハーブはびっくりした。
なんと、床に描かれた文様の真ん中に立つサキの両足が、床に埋まっていた。というより、床にのみ込まれていると言ったほうが当たっている。
そして見ているあいだにも、サキの体はどんどん沈んでいく。
ふたりはあわてて駆け寄り、左右からサキの両手をつかんだ。それでも沈む速度は変わらない。3人の体はアリ地獄に捕まったように、ズルズルと床に沈みだした。
ユーミンは、アロイがこちらに来るのに気づき、大声をあげた。
「アロイ、こちらに来ないで!ウータンお兄ちゃんを知ってるね?お兄ちゃんはこの城に来ている。助けを求めて!」
アロイがうなずいて、部屋の外に駆けだした。
3人の体は腹から胸へと、沈んでいった。不思議に何の痛みも感じなかった。まるで床の下に沈んだ体の部分が、霧のように消え去ったみたいだった。
彼らは沈みつづけ、首からあご、そしてついには、彼らの姿は完全に消え去っていた。
――*――
床にのみ込まれたサキたち3人は、回転しながら落下していた。目に映るもの何もかもがめまぐるしく回っていた。まるで巨大な渦巻きに吸い込まれていくようだった。
彼らは落下しながら、ほとんど意識を失っていた。
気がついたとき、3人は大地に横たわっていた。
ふらつきながらサキが立ちあがった。
「フウー、まだ目がまわってるみたい。いったい何だったんだ?」
地面にべったりと尻餅をついて、ハーブが言った。
「それは、わしこそ聞きたいよ。いったいここはどこなんだ?」
「それにしても奇妙なところ。まるでこの世とは思えない雰囲気だ」
ユーミンがまわりを見まわしながら言った。
確かに奇妙な光景が広がっていた。黒、灰色、白――目に映るものは、すべて無彩
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