(6)
まもなく扉の向こう側で、男たちの声が聞こえた。それからなにやら叫び声がし、ついで走り去る足音がした。
ウータンはちょっと待って、そっとドアを開いた。3人の衛兵が回廊を走って、向こう側の階段のほうに走っていた。
「今のうちだ。上に行くぞ!」
彼は扉をいっぱいに開くと、みんなに言った。
上の階にはまだ衛兵が残っているかも知れなかった。しかし、今はそんなことを考えている余裕はなかった。
彼は先頭に立って、階段を駆けあがった。
やはり衛兵がひとりいた。その男はウータンの姿を見て、槍を構えたが、大扉の前から動かなかった。どうやらそこが、王子の部屋らしい。
時間がなかった。またいつ、先ほどの衛兵たちが戻ってくるかわからなかった。彼は衛兵のところに走り寄ると、剣を構えて対峙した。
衛兵が槍を突き出した。
ウータンはすばやく体を右に捻って、剣を振った。
槍の柄がすっぱりと両断された。
衛兵がおどろいて穂先のなくなった槍を見ていると、あとから駆けつけたハーブが男の腰をつかみ、投げ飛ばした。
衛兵は頭から壁にぶつかり、ぐったりとなった。
そのとき、下のほうから剣を打ち合う音が聞こえてきた。
「ハーブ、あなたはふたりと『時の間』に行ってくれ。ぼくはケインの加勢をする」
ウータンはそういうと、音のするほうへと走った。
ケインは、3人の衛兵が彼の姿に気づくまで待って、下の大広間のほうに向かった。
男たちを引きつけておいてどこかに隠れれば、そのあいだにウータンたちは『時の間』に行ける――。そう思ったのだ。
ところが大広間に行くと、武器を持った男たちが待ちかまえていた。全部で5人いた。
真ん中にひときわ大きな体格をした男が、薄ら笑いを浮かべて立っていた。左目がつぶれている。
(こいつがハーゲインだな)
ケインは瞬時に悟った。その横に背の低い男が立っていた。目の細いずる賢そうな顔をしている。フヌギという男だ。
「ほう、ひとりでこの城に忍び込むとは、泥棒にしてはいい度胸をしている」
ハーゲインがドスのきいた声で言った。
(おれひとりだと思っているんだな。ならば好都合だ)
ケインはニヤリとすると、落ち着いた声で言った。
「おれは泥棒じゃない。ちょっとこの城を見物してみたかっただけだ。もう見終わったから、帰るところだ」
「ケッ、気のきいたことをぬかしおって。貴様の帰るところは、地下の牢獄だよ」
フヌギが憎々しげに言った。耳障りなキンキン声だった。
「その前にいたぶってやる。ヤレッ!」
ハーゲインが鋭く言った。
とたんに他の男たちが襲いかかった。
ケインは槍を振りまわして、男たちの攻撃を受け止めた。男たちはいずれも屈強な体格をして、長剣や棘のついた棍棒などを持って、じりじりと迫ってきた。
そこに上から来た3人の衛兵が加わった。ケインは多勢に無勢だった。彼は戦いながら、城に忍び込んだバルコニーのほうにじりじりと後退した。そこに行けば隙を見つけて、逃げ出せるかもしれない。
ケインは3人の男を倒した。しかし彼も、脇腹や太腿に傷を負っていた。
男たちは命知らずだった。仲間が倒されても、ちっとも怯まず、次から次にとケインに襲いかかる。それを、ハーゲインとフヌギが腕組みをして、離れたところから見ていた。
背中に棍棒を打ちつけられて、ケインは息を詰めた。彼は片腕を伸ばすと、棍棒を持つ男の頭をつかんで壁にぶち当てた。気持ちの悪い音がして、男の頭がつぶれた。
ケインは背中の痛みをこらえて、バルコニーに出た。
「ケイン!」
ウータンの声がした。
「おや、もう一匹ネズミがいたのか」
ハーゲインが振り返って言った。「フヌギ、おまえたちはあの小僧を始末しろ。おれは大きいほうをやる」
彼はそういうと、倒れた兵士が床に落とした剣を拾いあげ、ゆったりとした動作でバルコニーに出た。
「あの世に送ってやる前に、おまえの名前を聞いておこう」
ハーゲインはケインと対峙すると、ふてぶてしく言った。
「貴様に名乗る名前などない!」
ケインはそういうと、槍をくり出した。
ハーゲインは剣を振って、いとも簡単にケインの槍を叩き落とした。
いくつも傷を負って、ケインの動きは鈍っていた。
ハーゲインはそのまま動きを止めずに、素早く駆け寄って、ケインの腹に剣を突き刺した。
「う、ぐぐぐ――」
ケインが、くぐもったうめき声をあげた。
「どうだ、痛いか?」
ハーゲインはケインの肩に手を置いて、突き刺した剣をねじった。
ケインの口から鮮血が流れ出た。
それを小気味よさそうに見ていたハーゲインの表情が、驚愕に変わった。
ケインの両腕が彼の背中に巻きついて、がっしりと締めつけたからだ。
想像を絶する力だった。
「クソッ、放せ!」
ハーゲインの顔が苦悶にゆがんだ。
ケインは薄れゆく意識の中で、渾身の力を込めてハーゲイ
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