(5)
真夜中に、ウータンたちはアトラス城に向かった。町の通りは、人っ子ひとり見当たらなかった。高い城塞の上には見張りがパトロールしていたので、彼らは目立たないように、家影を縫って歩いた。
イルスの言っていた場所は、城の側面の高い石垣のところだった。見あげると、アトラス城の巨大な影がそびえ立ち、途中でバルコニーが張り出していた。
ウータンはイルスにもらったロープをとりだし、鈎爪をバルコニーに向かって放りあげた。かすかに石の床に落ちる音がした。ゆっくりとロープを引っ張ると、鈎爪が手すりに引っかかる手応えを感じた。彼は力を入れてロープを引っ張り、鈎爪がしっかりと引っかかったのを確認すると、みんなのほうを振り返った。
「最初はぼくが行く。ユーミン、弓矢を構えて、だれか気づかないか見張っていてくれ」
ウータンはロープに取りついた。ロープには一定間隔で結び目がつけられていたので、登るのは簡単だった。彼はロープを伝ってスルスルと壁をよじ登り、手すりから頭を出して城内のようすをうかがった。広いバルコニーには見張りがいなかった。彼は手すりを乗り越えると、身を乗り出して下の仲間に合図を送った。
全員がバルコニーに上がってくると、ウータンは窓の明かりのそばで、見取り図をとりだした。
皆がそれを取り囲んだ。
「いいかい、このバルコニーは3階の大広間につながっている。ここだ。『時の間』へ行くには、いったん5階にある王さまの部屋の前を通らなければならない。今は王さまがいないので、空き部屋か、あるいは王子の部屋になっているかも知れない。そこしか道がないんだ。そのあとは階段室に入って、ずっと下まで降りればいい。地下1階に『時の間』がある」
ウータンが説明すると、ケインが腕組みをして言った。
「王子の部屋になっているのなら、警戒が厳重なはずだ。そこを通り抜けるのは、容易じゃないぞ」
「何とかなるよ。さあ、行こう」
サキがあっさりと言って、立ちあがった。
ウータンは見取り図をしまうと、立ちあがりながら言った。
「よし、ぼくとケインが先に行く。あとの3人は、合図を送ったら来るんだ」
大広間は燈火の大半が消されて、薄暗かった。だだっ広い部屋には人っ子ひとりいず、シーンと静まり返っていた。
ウータンとケインは暗いところを選んで、広間を横切り始めた。
途中でケインがウータンの腕をつかんだ。彼はシーッと人差し指を口に当てると、先のほうを指差した。
広間の反対側の出入り口に、衛兵の姿が見えた。
ケインは小声で言った。
「おれに任せろ。いいか、おれが合図を送ったら、おまえは何か物音を立てるんだ」
そういうと、ケインは柱の影から影へと移動しだした。彼は出入り口の近くの柱に隠れると、ウータンに合図を送った。
ウータンは床に伏せたまま、剣でそばにある銅製の花瓶をそっと叩いた。
ふたりの衛兵がそれに気づいた。彼らは槍を構えて、慎重に前に進んできた。ウータンは床に這いつくばって、息をひそめた。ケインが柱から出て、衛兵たちの背後にまわり込むのが見えた。
ケインは後ろから衛兵ふたりの頭をつかみ、ぶち当てた。鈍い音がして、衛兵たちは声もなくくずおれた。
ウータンは背後の3人に合図を送ると、ケインのもとに駆け寄った。ケインは気絶した衛兵たちを、物陰に引きずり込んでいた。
ふたりは上への階段をのぼった。4階は下の大広間を見下ろす、吹き抜けになっていた。今いる所から壁をまわり込んで、奥の階段に通じる回廊が伸びていた。階段のところにふたりの衛兵がいた。
「クソッ、これじゃ回廊を歩いているときに、見つかってしまう」
ケインが小声で言った。
そのとき背後から、ハーブたちが合流した。
彼らはいったん階段のところに戻ると、作戦会議を開いた。
ウータンが状況を説明した。
「あの衛兵たちを片づけなければ、上には行けない。でもどうやって彼らに近づくかが問題だ」
サキが横から言った。
「あいつらの注意を引きつける方法は、と――やっぱり、ぼくの魅力を使う以外にないな」
「なんだサキ、おまえの魅力を使うって?」
「だから、ぼくがあいつらに話しかけるんだ。その間に、だれかが近づいて、ふたりをやっつければいいの」
「なるほど、サキは子供だから、衛兵たちは油断するからな」
「違う、ぼくはよく女の子と間違えられるけど、その魅力を彼らに使うんだよ」
ケインが鼻を鳴らした。
「フン、それはともかく、サキがあいつらに話しかけているあいだに、おれが近づく」
ウータンがさえぎった。
「まてよ、ケイン。きみじゃ体が大きくて、目立ちすぎる。今度はぼくがやる」
ウータンたちが壁のうしろから見守る中、サキはのんびりとした足取りで、衛兵たちのほうに歩いて行った。
サキの姿に気づき、衛兵のひとりがサキに声をかけた。槍で身構えないところ
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