(4)
秘密の通路は、いやになるほど長くて単調だった。皆は辛抱強く、黙々と歩いた。
ようやく地下の秘密ルートから、町中の宿屋に辿り着いた。
地下室から上にあがると、バーカウンターで客の相手をしていた中年の男が、用心深そうな目つきでこちらを見た。お月さまのように頭が禿げて、血色のよい顔をした男だった。彼はカウンターから出て、こちらに近づいてきた。
ウータンは声をかけた。「イルスさんですか?」
男は慎重な口ぶりで言った。
「イルスはわたしですが、あなたがたはどこからやって来たのです。表のドアから入って来たとは思えないが――」
ウータンはささやき声で言った。
「地下から――。ユシアスさんに聞きました」
とたんに男の顔が明るくなった。彼はそっと他の客たちのほうを見ると、小声で言った。
「上の部屋で待っていてください。あとで食事を持っていきます」
そう言うと、イルスは客たちのほうに戻っていった。
「アトラス城にもぐり込む方法ですか?」
イルスは考え込んで言った。
ウータンたちは部屋で遅い夕食をとりながら、宿屋の主人、イルスと話をしていた。
リンゴにかぶりつきながら、ウータンが言った。
「ええ、なんとか城に入りこんで、『時の間』に行きたいんです」
イルスは眉をひそめて頭を振った。
「それは難しいことですね。それにすごく危険だ。あそこには恐ろしい衛兵たちがいます。ジーマの集めた男たちです」
「大丈夫だよ、ウータンやケインがいるから。ふたりともすごく強いんだ」
サキが珍しくふたりを誉めた。
「それに、わしもいるしな」
自分の名前が出なかったので、ハーブが少し不機嫌そうに言った。
イルスがおそるおそる言った。
「でも、あの城はすごく広い。中に入れても迷子になるかも知れません」
「大丈夫です。ユシアス夫妻に、城の見取り図を描いてもらいましたから」
ウータンは、ふところから紙をとりだした。紙を広げると、城の概略図が描かれていた。ユシアスやカトリーヌが思い出しながら、描いたものだ。
イルスはため息をついた。
「やれやれ、あなたがたは本気で城に行くつもりですね。でも城の衛兵にはくれぐれも気をつけてください。とくに、ジーマの用心棒のハーゲインとフヌギは危険な男たちです」
(フヌギ?前にイジリが言っていた、光の塔から太陽の石を持って逃げた神官の名前だ)
ウータンはイルスに聞いた。
「そのフヌギって男、小柄でキツネのような顔つきをしていますか?」
イルスが驚いて言った。
「ええ、そのとおりです。フヌギをご存知でしたか?」
ウータンはユーミンと顔を見合わせた。
「顔を見たことはありませんが、聞いたことはあります。それで、もうひとりのハーゲインという男は、大男で左目が潰れていますか?」
「そうです。わたしならハーゲインに、100メートルたりと近寄りませんね。見るからに恐ろしそうな男でした」
イルスは、思い出したように身震いした。
(ついに父さんの仇を見つけた)
ウータンは体中の血が騒ぐのを覚えた。
彼の顔をじっと見ていたハーブが、横から言った。
「ウータン、わしたちの目的は『時の間』を調べることだぞ」
ウータンはあわてて言った。
「わかってるよ、ハーブ。無茶はしないよ」
「どうしても行きなさるか。仕方ない、ちょっと待っててくだされ」
イルスは立ちあがると、部屋から出ていった。
次に彼が戻ってきたとき、その手に巻いたロープが握られていた。ロープには一定の間隔で結び目があり、その一端は四つにわかれた鉄の鈎爪がついていた。
「これを使って城に忍び込みなさい。ほら、この場所からがいい」
彼は、テーブル上に広げられた見取り図に指を滑らせて、忍び込む場所を示した。
「ここは見張りが少ない。ときどき観察していたんで分かります」
「あのう――イルスさんは、ユシアスさんたちと組織を作っているんですか?」とウータンが聞いた。
イルスはにっこりとほほえんで、肩をすくめた。
「ええ、みなそれぞれの役割を果たしています。わたしは武器など使えないんで、こうやって情報を集めたり、必要なものを調達したりして、仲間たちのお手伝いをしているんです」
「じゃあ、ほかにも大勢の人たちがいるんだ」
「そう、ジーマの不正で迷惑をこうむっている人々がね。いつかはユシアスさまやカトリーヌさまが、正しい政治をやってくれる日が来る、とみな信じて動いているんです」
そういうイルスの顔が、楽天的にほころんだ。
ウータンがケインのほうを向いて言った。
「お城に忍び込むのは、ぼくとケインで行く」
ケインがうなずいた。
ハーブが不満そうに言った。
「どうしてじゃ。わしも行く」
すかさずユーミンとサキも言った。
「ぼくも行く」「ぼくもだ」
ウータンはあわてた。
「ちょっと待てよ。これは遊びじゃないんだぞ。イルスさん
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[*]
感想