(3)
女性の家は、町から離れた森の中に建っていた。こぢんまりとした家で、ウータンはその家を見たとき、なぜかトマの町の自分が生まれ育った家を思い浮かべた。
その中年女性はカトリーヌと名乗った。彼らは食堂でお茶を飲みながら、婦人と話をした。
ウータンがカトリーヌに聞いた。
「アトラスの町に入るのに、どうしてあんなに厳重なんですか?」
「不穏分子を町に入れないためです」
「不穏分子?なんですか、それは」
ウータンのけげんそうな顔を見て、カトリーヌが訳を説明した。
「この国は、歴史的に内紛が絶えないのです。権力争いやスパイ、暗殺などの歴史です。4年前、王が亡くなられたとき、新たな混乱が起きました。というのも、跡継ぎとなられる王子はわずか1歳――今は5歳になられていますが、王子の後見人をめぐって、臣下の間で権力争いがありました」
彼女はため息をついた。「勝者が敗者を追放するのは、よくあることです。そして今、その後遺症がつづいているのです」
ユーミンが聞いた。
「負けたほうの人たちは、どうしているのです?」
カトリーヌは微笑んだ。いかにも優しそうな笑顔だった。
「さあ、どうしているのかしら」
そこで彼女は、ウータンのほうを見た。「それにしても、あなたは不思議な目をしていますね」
ウータンは頭をかいた。
「よく人にいわれます。父親似なんです」
カトリーヌはウータンをじっと見ながら言った。
「前にあなたと同じ目をした男の方に、命を助けてもらったことがあります」
それを聞いて、ウータンの胸が弾んだ。
「その男の人は、どんなようすをしていましたか?」
カトリーヌは思い出しながら言った。
「ご立派な顔立ちの大きな体をした方でした。世界中を旅していると言われていましたが――」
ウータンは性急に言った。
「ひょっとしたら、ぼくの父かも知れません。そのときのことを、詳しく話してくれませんか?」
「ピザン寺院にお参りしたときのことです。町の外れでわたしたちは暗殺者に襲われたのです。そのとき駆けつけて、暗殺者を撃退してくださったのが、その男の方でした。とても勇敢でお強い方でしたが、お話し振りはとてもおだやかでした」
「その人は名前を言いませんでしたか?ぼくの父の名前はマリン・モリスといいます。」
カトリーヌの顔が、にわかに明るくなった。
「ええ、マリンとおっしゃっていましたわ。じゃあやっぱり、あなたのお父さまでしたのね」
彼女は懐かしそうに、ウータンの顔を見た。
ハーブが横から言った。
「ところで、あなたはさっき、暗殺者に襲われたと言っていましたな。そんな者に襲われる理由があるのですか?」
カトリーヌは困った表情をした。彼女は言おうかどうしょうか、迷っている様子だった。
そのときだった。部屋の奥のドアが開いて、立派な体格の中年男があらわれた。その男も、どことなく気品があった。
「失礼だが、となりの部屋で聞いていました。わたしはカトリーヌの夫、ユシアスと申します」
男は軽く頭を下げた。それからカトリーヌに向かって言った。
「カトリーヌ、この方たちは悪人ではない。それに、おまえを助けてくださった方の息子さんもいる。これも何かの縁だ。いまこの国に起こっていることを、お話してあげなさい」
カトリーヌは夫の言葉に、軽くうなずいた。
「わかりました。では、包み隠さずお話しますわ。でもその前に、部屋を移りましょう。人が来るといけませんから」
ウータンたちは夫婦のあとについて、ユシアスのいた部屋に行った。そこは書斎になっていた。ユシアスが壁の一部を触ると、本がぎっしりと詰まった書棚が回転した。
奥は小さな部屋になっていて、下に降りる階段があった。
「なんとまあ、隠し部屋とは――あなたがたは一体」
階段を降りながらハーブがつぶやいた。
地下室に入ったとたん、ウータンたちは驚いた。そこは予想もしなかったほど、広くて豪華な部屋だった。
見事な綾織の布が壁に張られ、床はふかふかのカーペットが敷き詰められていた。高い天井には、きらきらと輝くクリスタルのシャンデリアが下がっている。
彼らは部屋の中央に置かれた、大理石のテーブルを囲んで腰かけた。カトリーヌが銀のポットからお茶を注いで、皆に配った。
一息つくと、彼女は話しだした。
「先ほどわたしは、この国に権力争いがあったとお話しましたが、その渦中にわたしたちもいたのです。わたしの兄は、王の信望厚かった近衛兵の隊長でした。王が亡くなられたあと、兄が執政官として、王子が成人されるまでこの国を治めるもの、とだれもが思っていました。ところが、その兄が何者かによって暗殺されたのです」
彼女はその言葉がみんなに浸透するまで、しばらく口を閉じた。
「兄の暗殺は、王子の世話係をやっていた、ジーマの陰謀だったのです。ジーマはわたしの兄を亡き者に
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