(2)
一瞬、息が詰まった。意識朦朧として、ウータンは頭を振った。
だれかが叫んでいた。
(何だって?)
彼はふらつきながら、立ちあがった。
そのとき何かが彼の胴体に巻きつき、宙に持ちあげられた。
気味の悪い吸盤のついたヌルヌルした足が、ウータンの体を締めつけた。
ものすごい力だった。
ウータンは声にならない叫び声をあげて、背中の剣を引き抜いた。剣が光りだした。刃に刻まれた文様に沿って、無数の光りの筋が走った。
彼は刀を振り下ろそうとしたが、胸をきつく締めつけられて、身動きが取れなくなった。体中の骨が軋み音をたてた。
(だめだ。このままでは絞め殺される――)
そのとき、ウータンの目の端に、光りの筋が走るのが見えた。ユーミンの放った矢が、大タコの目に突き刺さった。
ウータンの体を締めつける力が、いっしゅん弱まった。
すかさず剣を振った。怪物の足が、ものの見事にスッパリと切り落とされた。彼は一回転して甲板の上に飛び降りた。
「大丈夫か?」
ケインが駆け寄ってきた。
「ああ――もうだめかと思った」
ウータンは剣を構えて、油断なく大タコのほうを見ながら喘いだ。
吹き荒れる嵐の中で、ウータンたちはよろけながらも怪物とたたかった。大タコは片目をつぶされながら、すこしも弱った様子がなかった。
ハーブとケインが力を合わせて、もう一本の足を切り落とした。そのあいだに、ウータンは念力で炎を大タコの顔面にぶつけた。怪物は驚いて少し後退したが、炎はあまり効いていないようだ。
ユーミンが太陽の石を両手で抱き、精神集中した。
突如、光りの玉がすさまじい勢いで、大タコの顔面にぶち当たった。光りの飛沫が大きく飛び散った。怪物はさすがにこたえたようだ。
薄暗い空間に、ふたたび光りの玉が飛んだ。
怪物が後退して、船縁から海に落ちた。
船の上で歓声が沸き起こった。ようやく海の怪物を撃退したのだ。甲板の上には、切り落とした2本のタコの足が残っていた。まだくねくねと動いていた。
それを見て、ケインが言った。
「タコの足のステーキがたっぷりと食えるな」
ハーブが同意した。
「うん、うまそうだ」
ウータンはユーミンのほうに駆け寄った。
「さっきは助けてくれて、ありがとう。大丈夫かい、ユーミン?すごい光りの玉だったけど――」
「ええ、ちっとも疲れていません。この石がエネルギーを与えてくれました」
ユーミンは太陽の石をなでながら、微笑んだ。
長い船旅ののち、船はアトラス国の港に着いた。
陸地にあがって、まず彼らが驚いたのは、延々とつづく高い砦だった。切り出した石が正確に積まれていて、ところどころに小窓がついていた。上は通路になっているらしく、見張りの兵士の姿が見えた。
その砦の奥に、ひときわ高い建造物が目をひいた。何層にも重なって、複雑な形状をした飾り窓がつけられている。その要所要所には、人物の石像が配置されていた。
一行は口をあんぐりと開けて、その建物の威容を見あげた。
砦の足元には大きな門があった。どうやらそこが町への入り口となっているようだ。船で一緒だった人々が、門の手前の関所で手つづきをして、通過していた。
(やっとアトラスに来たんだ。すべてはこの国につながっている)
ウータンは身の引き締まる思いに、ブルッと身震いした。
彼らはその関所に行った。
衛兵が胡散臭そうに一行を見て、入国証を見せろと言った。
「入国証?そんなの、持っていませんが――」
ウータンが言うと、衛兵が警戒するように、にらみつけた。
「じゃあ、だめだ。引き返すんだな」
「そんな――入国証はどこに行けばもらえるんですか?」
「法務局だ」
「法務局はどこにあるんです?」
「町の中だ」
「じゃあ、そこに行って入国証を貰ってきます」
「それはだめだ。おまえたちは入国証を持っていない。だから、町には入れん」
ウータンはムッとして訊いた。
「じゃあ、どうすればいいんだ!」
「引き返せばいいだろうが」
衛兵は意地の悪い薄ら笑いを浮かべて、ふんぞり返った。
ウータンを押しのけてケインが前に出ると、他の衛兵たちが槍を持って身構えた。
「慌てるな。何もしないよ。――ウータン、引き返そう」
ケインはあっさり言うと、おとなしく引き下がった。
ウータンたちは所在なさそうに、港のほうに戻った。
「町に入るのに、えらく厳重なチェックだったな。何かあったのかな?」
ハーブがだれに言うともなく、つぶやいた。
ケインがそれに答えた。
「ああ、まるで戦争中のようだ。スパイ防止だな」
サキが不満たらしく言った。
「これからどうするの。せっかくここまで来たのに」
ウータンが考えながら言った。
「どこか他に入り口がないか探すしかないな。町の塀伝いに歩いてみよう」
そのとき、上品な顔立ちの中年女性が近づいてきた。
「あのう――」
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