(3)

(3)

全裸のマリアンヌが、会堂にたたずんでいた。昔のままの若々しくて、清楚な姿で――。
「マリアンヌ!」
ケインは彼女のもとに駆け寄ろうとした。それを押しとどめるように、マリアンヌが片手をあげた。
「待って、ケイン。わたしはもうこの世の人間ではないの」
「だけどきみは、生きいきとしてるじゃないか。昔のままで、美しい」
ケインは、彼女に訴えかけるように言った。
マリアンヌが静かにほほえんだ。
「あなたの目に写っているのは、昔のわたしのイメージなのよ。わたしの肉体はすでに朽ち果てています。でも、肉体を失った今も、わたしはあなたを愛しています」
ケインはじれったそうに言った。
「おれだってきみを愛している。だから、一度でいいから、きみをこの腕に抱きたい」
「――それは無理なの」
ケインの隆起した股間を見て、マリアンヌは恥ずかしそうに頭を振った。「わたしの霊は、自分の不幸を嘆くあまりこの地にとどまり、町の人々に災いをもたらしました。でも、それをあなたが救ってくれました」
「おれは何もしていないぞ」
「いいえ。あなたは人を愛することのすばらしさを、再びわたしに教えてくれました。お陰でわたしは、ようやく天に昇ることができます。あなたのお父さまのように」
「マリアンヌ!きみが行ってしまったら、おれはどうして生きたらいいんだ?おれも一緒に行きたい」
ケインは切なそうに手を差し伸べた。
「あなたには、すばらしいお仲間たちがいます。あなたたちの使命をまっとうしなさい」
天井から光りの束が伸びてきて、マリアンヌの体を包みこんだ。
ひとときのあいだ、彼女の全身が、この世のものとは思えないほど美しく光り輝いた。それから、その姿が薄れだした。
「マリアンヌ!」
ケインは悲痛な声をあげた。
マリアンヌの姿が光りの霧となり、天に昇っていった。上のほうから彼女の思念が届いてきた。
(ケイン、ありがとう。愛してる)
ケインは涙でくもって見えない目で、上空を見上げていた。しばらくして顔を戻すと、床の上にキラリと光るものを見つけた。彼はそれを拾い上げた。昔、マリアンヌにプレゼントした金の指輪だった。彼は指輪をいとおしそうに撫で、左手の小指にはめた。

「見て!霧が晴れだしたよ」
サキがまわりを見て言った。
確かに、それまで濃密にたちこめていた霧が、みるみる薄れていった。空が明るくなってきた。
霧が晴れわたったあとの光景は、惨澹たるありさまだった。まわりはいたるところ、ぬるぬるした黒い泥でおおわれ、枯れ木が不気味な怪物のように立っていた。
すぐ先に、泉の跡らしい、円形の水溜まりがあった。その水底も、黒いヘドロでおおわれている。
しかし、見ていて気持ちの悪くなる光景も、急激に変化した。湿った泥でおおわれた沼地が、乾燥しだした。乾燥した泥の表面に、無数の細かい亀裂が走った。その合間から、緑の草が芽を出した。枯れた木の枝にも、新芽がふきだしていた。
「すごい!奇跡だ!」
サキが歓声をあげた。
みんなは、目の前で変化する大自然の奇跡を見守っていた。水の音がしてそちらを見ると、泉の底から透明な水が溢れ出していた。水の勢いが、底に溜まっていた黒い泥を洗い流した。泉はもとの清澄な姿に戻ろうとしていた。

まもなくケインが神社から戻ってきた。彼の顔は涙で濡れていたが、その表情は何かが吹っ切れたように爽やかだった。
ケインの逞しい裸体を見ながら、サキがユーミンに囁きかけた。
「ケインて大人だね。あんなに大きくなるんだ」
ユーミンも気を呑まれたように、ケインの股間を見ていたが、彼はぼんやりと言った。
「ウータンのほうがもっと大きいよ」
彼は言ったあと、サキの視線に気づいて、あわてて口を押えた。
ふたりの会話をよそに、ウータンがやるべきことを言った。
「ケイン、マリアンヌときみのお父さんのお墓を建てよう。それから、神社をもとどおりに直すんだ」

彼らは、泉を見おろせる小高い台地に、ケインの父親とマリアンヌの墓を建てた。それから神社の修復にかかった。泉の奇跡を見に来た町の人々が、作業を手伝ってくれた。
それから1か月ほどが経ち、泉はすっかり昔の姿を取り戻していた。
清らかな水がこんこんと湧き出し、町の人たちが集まってその水を汲み、飲料水やワインの製造に使いだした。
泉のまわりに、昔の活気がよみがえった。木々にも青い葉がつき、小鳥のさえずり声も聞こえてきた。地面のあちこちで、色とりどりの花が顔をのぞかせていた。
一方、サキやハーブは、神社で何があったのかケインにしつこく質問した。しかしケインは、修復作業に精を出して、その質問にはいっさい答えようとしなかった。
代わってウータンが彼らの疑問に答えてやった。彼はすべてを知っていた。あのときは、まるで彼自身が、ケインに成り代わったようだった。ケイ
[3]次へ
[7]TOP [9]目次
[*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35b