(2)
「ウータン、なんであんなことを言ったの。物好きもいいとこだよ」
泉に向かいながら、サキがぶつくさ言いだした。
ウータンが、うるさそうに言った。
「だったら、サキはついて来なければいいじゃないか。町で待ってろよ」
それでもサキは、しぶしぶながら3人のあとに従った。
ウータンは歩きながら言った。
「さっきホルムが言っていたふたりの男の話だけど、ひょっとしたら、ぼくの父さんを殺した男たちじゃないかと思うんだ」
サキが訊いた。
「タスクの酒場で聞いた話?」
「ああ、あのとき、ふたりの男が父さんのあとを追っていると言っていた。そのとき聞いたふたりの人相が、さっきのホルムさんの話と一致するんだ。それに父さんは、胸と背中を切られていた――」
少しして、ハーブがぽつりと言った。
「お父さんの仇を討つのか?」
「まず、確かめてみる――ふたりに会えたら」
「ふたりがお父さんを殺したとわかったら?」
「さあ、わからない――そのときになってみないと」
ウータンは考えながらつぶやいた。
そこは深い霧がたちこめた、灰色の世界だった。あたり一面が沼地のようだ。霧の合間に、枯れた樹木の黒い影が見えた。そして、何とも言いようのない悪臭がした。
サキが小声で言った。
「なんだか薄気味が悪いよ。ウータン、やっぱり引き返そうよ」
ウータンがささやいた。
「ここまで来たんだ。ホルムさんの言ってた泉を見てからだ」
彼は邪悪な気配を感じとっていたが、勇気をふるって前に進んだ。霧が深くて、どこが泉なのか分からなかった。
「うわっ!」
サキが小さく悲鳴をあげた。
「なんだい、サキ?」
ウータンは振り返った。サキは足もとを見ていた。
「何かがぼくの足をかすめた」
ウータンは足もとの様子をうかがった。霧が地面にまとわりついて、小さな渦を巻いていた。
そのとき何かの動く気配がした。
と同時に、ウータンの前に鎌首をもたげた大蛇が現れた。人間よりも大きな三角頭、黄色の不気味な目、黒と茶色のウロコで覆われた太い胴体。
ウータンは、反射的に剣を横になぎ払った。
大蛇の太い胴が両断され、首が吹っ飛んだ。びっくりするほどの見事な切れ味だった。
「気をつけろ!まだいるぞ」
ウータンは、油断なくまわりを見まわしながら叫んだ。
そのとき、ハーブがうめき声をあげた。彼の体に大蛇が巻きついていた。気をつけの姿勢で両腕を締めつけられ、彼は斧を振るえなかった。
大蛇がカッと口を開けた。裂けた口から、鋭い牙、二股にわかれた長い舌がむき出しになった。
ユーミンが素早く弓矢を射た。白銀の尾を引いて、矢が大蛇の口を射抜いた。矢はその勢いをゆるめず、背後の枯れた大木に大蛇の頭部を縫いつけた。
地面を這う霧の動きが活発になってきた。その合間に、太くて黒い影がうごめいた。それも無数の動きだ。霧の中は邪悪な気配で満ちていた。
「だめだ、多すぎる!引き返せっ!」
ウータンは叫ぶと、後ろに下がった。
一行はあわてて霧の中から外に出た。
そこで彼らはギョッとした。
素っ裸になったケインが、槍を持って立っていた。
彫像のように、鍛え抜かれた立派な肉体だった。筋肉に覆われた分厚い胸、引き締まったウエスト、張りつめた太腿、そして一段と逞しさを見せる男の象徴――。その姿は神々しくさえあった。あいかわらず無表情だが、なにかを決意したような顔つきだった。
ケインは静かに言った。
「ここからは、おれひとりで行く。おれの問題だ。皆はここで待っていてくれ」
ケインは前に進み出ると、突っ立ったまま目を閉じた。彼は心の中で呼びかけた。
(マリアンヌ、おれだ。ケインだ。戻ってきたぞ)
ケインの頭の中に、かすかな思念が送られてきた。
(ケイン、会いたかったわ。でも、いまさらなぜ戻ってきたの?)
(おれは、きみが殺されたあと、町の大勢の男たちを殺めた。そして、生きる目的も失って、あてもなくこの世界を放浪した。おれのこの手は血にまみれている)
(でもそれは、あの人たちが悪いのよ)
(だからと言って、多くの人たちを殺した罪は免れない。おれはずいぶん長いあいだ、悩んだ。でも今は少しだけ、人の役に立つ喜びを理解した。友達のおかげだ)
(そう、お友達ができたのね)
寂しそうな思念に、ケインは頭を振った。
(勘違いするな、マリアンヌ。おれの体を見てくれ。おれがこの体で愛したのは、きみひとりだ)
(わかっているわ、ケイン。でもあなたは、なぜここに戻って来たの?まだわたしの質問に答えていないわ)
(この町を助けて欲しい。皆、昔のような清らかな水を望んでいる)
(わかったわ、ケイン。あなたがそう言うのなら。――でも、今のわたしには、どうすることもできないの。闇の力が大きくなりすぎて)
(マリアンヌ。どこにいるんだ?)
(神社の中よ)
マリアンヌの思念が薄れ
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