第9章 地底世界の鍛冶屋
(1)
ウータンは夢を見ていた。夢の中で3才の幼児に戻って、父さんの胸に抱かれていた。父さんの体は大きく、そして暖かかった。
下のほうで母さんがなにか言っていた。彼女の顔は幸せに満ちあふれ、輝いていた。こんなにきれいな母さんの顔を見るのは始めてだった。ウータンは、モミジのように小さな手を、母さんのほうに伸ばした。
今度は母さんの胸に抱かれていた。柔らかくて暖かく、とてもいい匂いがした。彼は母さんの腕の中で、気持ちよさそうにあくびをした――。
「――なんだって?おまえの言ってることは、さっぱりわからん――わしたちの言葉を話せるやつは、いないのか?」
ハーブの声が聞こえてきた。
ウータンはそっと目を開けた。心地よい暖かさに包まれていた。彼は大きな毛皮の中にいるのに気付いた。
首を伸ばして声のしたほうをうかがった。ハーブが床にあぐらをかいて、ずんぐりむっくりした男と話をしていた。ふたりの姿は、熊の親子のようで、どことなく愛敬があった。目を転じると、仲間達がウータンと同じように毛皮に包まって眠っていた。
ハーブがウータンに気付いた。
「おお、ウータン、目が醒めたか。こちらに来てくれ。言葉が通じなくて困ってるんだ」
ウータンは毛皮の下から抜け出ると、ハーブのかたわらに行った。
ずんぐりむっくりした男が、興味深そうにウータンを見あげた。黒い髭だらけの顔の中で、茶色の大きな瞳が優しそうに輝いている。身長は150センチくらいだろうか。がっしりとした肉づきのいい体格をして、毛皮の服から突き出た腕も脚も逞しかった。
ウータンは無意識に、その男に思念を送ってみた。素朴で暖かい感情が伝わってきた。
「あなたがぼくたちを助けてくれたんですね。どうもありがとう」
ウータンは床に座ると、ほほえみながら髭面の男に片手を差し出した。男は戸惑ってウータンの手を見ていたが、不意にニコニコして、大きな両手でウータンの手を包んだ。暖かくて力強い手だった。男は手振り身振りで、なにやら奇妙な言葉を話しだした。
「ああ、お願いするよ。おなかがペコペコなんだ」
ウータンが同じく身振りを交えて言うと、男は大きくうなずいて立ちあがり、部屋から出ていった。
ハーブは目を見開いて、ウータンを見た。
「おまえ、あの男の言葉がわかるのか?」
「なんとなくね。心が通じればわかるもんさ」
そのとき部屋の隅から、ケインの声が聞こえてきた。彼も目を覚ましていたのだ。
「ウータンはアニマル族に近いからな。だから心が通じるんだ」
ケインの声に目覚めたかのように、ユーミンとサキも毛皮から出てきた。彼らは不思議そうに、部屋の中を見まわしていた。
たしかに奇妙な部屋だった。壁と天井は乾燥した土でできていた。床には土の上に何枚もの大きな毛皮が敷きつめられている。家具らしきものは何もなかった。出入り口にも毛皮が吊るされている。どうやらこの部屋は、土と毛皮でなりたっているらしい。
しばらくして男が戻ってきた。灰色の髭を生やした老人が一緒だった。そのあとに、温和な顔つきの女性と思える仲間がふたり、食料の入った大きな籠を持ってつづいた。
驚いたことに、ウータンの言葉が通じていたのだ。
老人は威厳のある態度で頭を下げて、ハーブの向かいに座った。そして、おごそかな口調で言った。
「わしは長老のガロンというものです。落ち着かれたようですな。具合の悪いところはありませんか?」
ハーブが驚いて言った。
「あなたは、わしたちの言葉が話せるんですか?」
「ああ、この地底であなたがたの言葉を話せるのは、ほかにも何人かいます」
「地底?」
「そう、ここは地底の洞窟です。あとで案内してあげよう」
ハーブが老人に向かって、あらためて頭を下げて言った。
「それはそうと、お礼が遅くなってしまいました。あなたがたのお陰で、九死に一生を得ました。感謝します」
「どういたしまして。お互いさまですよ。あなたがたも、われわれの子供を助けてくれましたからね」
長老は頭を巡らせた。入り口の毛皮の隙間から、子供が部屋の中をのぞきこんでいた。山犬の群れに襲われていた子供のようだ。ウータンが右手をあげると、子供がはにかんだ笑みを浮かべて、顔を引っ込めた。
食事が出された。焼いた鹿肉にパン、それに大盛りの果物類。
みんなは思いがけないご馳走を、夢中になって食べた。それを長老が、嬉しそうに目を細めてながめている。最年長のハーブだけが、食事のあいまに長老と話をつづけた。
ハーブは仲間達の紹介をし、地底の世界について質問をした。
老人が話すに、この洞窟はアラバ山の内部にあるらしい。洞穴は縦横に入り組んでいて、山麓のピザンの町付近まで伸びているルートもあるという。
そしてここの住民は、太古の昔からずっと洞窟で生活していた。
彼
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