(2)
山を登るにつれ、道が無くなった。それに、日陰は融けきっていない雪が目立ってきた。左側は切り立つ岩山、そして右側は深く落ちこんだ谷。谷底には、豊富な水が音を立てて流れていた。
先頭を歩いていたサキが立ち止まった。
「あれっ!橋が壊れてる」
「何だって?」
ウータンが前に進み出た。
崖の先に、丸太で組んだ吊り橋があったが、先が途切れている。峡谷の向こう側に、切れた吊り橋がぶら下がっているのが見える。ぼう然とたたずむ一行に、重い荷物を背負ったハーブが息を切らせながら、ようやく追いついた。
老いた海洋族の漁師は、汗を拭きふき言った。
「フウーッ、せっかくここまで来たのに、この先どうするんじゃ?」
ウータンは努めて明るい声で言った。
「どうするって、ほかの道を探すしかないよ」
「しかし道はここしかないぞ。右は峡谷、左は登ることなど到底できない岩山だ」
ケインが茶化した。
「羽でも生やして空を飛ぶか」
「冗談はやめてよ。まったく、こんなときに、不真面目な大人なんだから」
サキが大人びてたしなめた。
「なんだチビ助。おまえにいい考えでもあるのか?」
ケインが質問して、サキが黙り込んだ。
そのとき、峡谷のほうを見ていたユーミンが声をあげた。
「あれはさっきの子供じゃないの?」
みんなはユーミンの指さす方向を見た。峡谷の向こう側の崖を、小さな生き物がよじ登っていた。黒い毛皮を身につけた、がっしりとした短躯。彼らが助けた子供のようだ。
「あの子、どうやってあそこに行けたのかしら?」
ユーミンが小首をかしげた。
谷底の渓流を見ていたケインが、下の方を指差した。
「おい、あそこなら川を渡れそうだ」
確かにケインのいう通り、渓流を少し下ったところに、水の流れを遮るように岩がいくつか並んでいた。あれなら岩伝いに渓流を渡れそうだった。向こう側は切り立つ岩壁で、その足もとに岩の転がる平地がわずかにあった。
「よし、戻って、下に降りられそうなところを探そう」
ウータンが言うと、ハーブが不服そうな声をあげた。
「ちょっと待て。わしは疲れている。少し休んでいこう」
ウータンは躊躇して、空を見た。
「だめだよハーブ。天気が崩れそうなんだ。今のうちに向こう岸に渡っておこうよ」
「よし、決まりだ。出発しよう」
ケインはそう言うと、黙ってハーブの肩から食料の入った布袋を取りあげた。
「おい、おまえが持ってくれるのか」
ハーブが驚いて言ったが、そのときには、ケインは荷物をかついでさっさと歩き出していた。
「無骨で冷たい男だと思っていたが、あれでなかなか、いいところがあるんだな」
ハーブがつぶやくと、横からサキが、大人びた口調で言った。
「ああ見えても、けっこう恥ずかしがり屋で、根は優しいんだ。ただ、ちょっと素直じゃないだけ」
5人は斜面に生えた木の根を伝って、谷底の河原にたどり着いた。
川幅は20メートルほどだが、水の流れは予想以上に速かった。上から見ていたときは気づかなかったが、川の中から突き出た岩の群れに水流がぶち当たって、大きな水飛沫をあげている。
ウータンは水に手をつけてみた。しびれるように冷たかった。
「岩から落っこちたら大変だ。いいかい、気をつけていくんだよ。まずぼくから行こう」
ウータンは手前の岩のうえに乗った。彼は次の岩に飛び移る前に、じっくりと進路を観察した。岩の背が、飛び石のように向こう岸の岩壁まで伸びていた。岩の表面は水飛沫で濡れていた。
「岩が濡れているから、足もとが滑りやすそうだ。先を急がず、ひとつひとつ慎重に飛び移るんだよ」
ウータンは、ほかの連中に念を押すと、次の岩に飛び乗った。とたん、足を滑らせて、あわてて岩にしがみついた。
彼は振り返って照れ笑いをした。
サキが冷やかした。
「ウータン、お手本にしては、笑いで受けようとしてるじゃない。もっと真面目にやってよ」
ウータンは気息を整えて、慎重に次の岩に飛び移った。
川の流れは、彼をのみ込もうとするように押し寄せてきて、岩にぶつかり、派手な水飛沫をあげた。冷たい水のしずくが体を濡らした。しかし二度と失敗をしなかった。彼は飛び石伝いに、ようやく向こう岸に渡った。
振り返ると、サキ、ユーミン、それにつづいてケインが川を渡っていた。最後尾のハーブの顔は、真剣そのものだった。
皆は問題なく、次々と岸にたどり着いた。ところが、ハーブが最後の岩で失敗した。彼は足を滑らせ、川の中に転げ落ちた。
「ハーブ、つかまれ!」
ケインがとっさに、槍の柄を差し出した。水流にのまれたハーブが慌てて片手を伸ばし、槍をつかんだ。
岸にあがってきたハーブは、全身ずぶ濡れだった。彼は助けてもらった礼もいわずに、ブスッとして上着を脱ぐと、水をしぼった。肉づきの良い上半身に鳥肌が立っていた。ほかの連中も水飛沫をあびて、寒
[3]
次へ
[7]
TOP [9]
目次[*]
感想