(3)
洞穴は湿っぽい土でできていた。ふたりは松明でまわりの壁を観察しながら、慎重に先に進んだ。土壁は、触ると崩れ落ちそうなほどもろく見えた。
少し歩くと、大きな空間に出た。
「あれは何だ」
ウータンが洞窟の奥を指差した。
奥の壁に、クモの巣が張られていた。巨大なクモの巣だった。その表面に、何かが引っかかっていた。
サキが息をのんだ。
「げっ、人の死体だよ」
確かに人間の死骸だった。それがふたつ。銀灰色のクモの糸がまきついていた。ミイラ化した人間の顔がこちらを見ていた。黒っぽく干からびて、窪んだ眼窩に空ろな穴があいていた。
クモの巣の隙間から、奥に伸びる通路の暗がりが見えた。
ウータンは松明をかざして、洞窟の周囲を照らした。
同じようなクモの巣が、左手の壁から天井に向かって伸びていた。よく見ると、無数のクモの糸が周囲の壁の上部に、縦横に張りめぐらされていた。そして地面には、白っぽい骨のかけらが、あちこちに散らばっていた。
「気持ち悪い。ぼくたち、クモの化け物の巣に迷い込んだんだ」
「シーッ!」
ウータンがサキを制した。
何かの物音がした。こするような、カサコソという微かな音――。
3人は全神経を耳に集めて、じっと立ち尽くした。生暖かい空気が、体にまといついた。
どこからか、枯れ葉の上を歩くような音が近づいてきた。
「来るぞっ」
ケインが鋭く言って、右手のほうに走り寄ると、松明を壁に突き刺した。ウータンもすばやく反対方向に走ると、ケインと同じようにした。
ウータンとケインは、部屋の中央で武器を構えて、奥の通路を見守った。サキはふたりの後ろで、縮こまっている。
怪物は、予期せぬところから現れた。
最初に気づいたのは、サキだった。
「うわーっ!」
サキが悲鳴をあげた。
巨大なクモは、外部に通じる側の天井にいた。壁の上部に裂け目があった。怪物はそこから出てきたのだ。
3人が見守るなか、大クモは尻から糸を吐きながら、ゆっくりと下りてきた。全身、不気味な毛で覆われ、人間の手足よりも太い脚がせわしなくうごめいていた。
怪物が地面に降り立った。
巨大だった。
ケインはサキを背後に押しやると、槍を構えた。その横にサーベルを持つウータンが並んだ。
怪物は、その巨体にもかかわらず、動きが速かった。8本の長い脚が地を這い、ケイン目がけて押し寄せた。
ケインが槍を突き出した。二つ又が、怪物の脚を裂き、胴体をかすった。脚から緑色の液体が飛び散った。
キーッ!
怪物が甲高い悲鳴をあげた。思わぬ反撃に、怪物は向きを変えると、こんどはウータンに襲いかかった。
ウータンは剣を横に払った。鋭い刃先が、怪物の脚を傷つけた。
それにも怯まず、大クモはなおも執拗に脚を振りあげて、ウータンを攻撃してくる。
ウータンは必死になって剣を打ち振ったが、防戦一方だった。
彼はジリジリと後退した。
「あっ!」
ウータンは、地面に転がる人骨につまずいて転倒した。
すかさず怪物がのしかかってきた。気持ちの悪い毛むくじゃらの脚が、ウータンの体を捕らえた。鋭い牙を持つ醜悪な顔が迫ってきた。
「気をつけろ!牙だ!毒がある!」
ケインが叫びながら、怪物の巨体に槍をくり出した。しかし届かなかった。怪物の長い脚が邪魔だった。
ウータンはもがいて、剣を使おうとした。しかし、大クモの脚が、剣を持つ右手を押さえつけていた。
怪物が口を開けた。黒光りする二本の牙が左右に開いた。
牙がウータンの顔に迫った。
そのとき、骸骨が飛んできて、怪物の口にガツンと当たった。
サキが投げたのだ。
怪物の動きがいっしゅん止まった。
「やあーっ!」
ケインが気合もろとも飛びあがって、両手で槍を突きおろした。槍は深々と怪物の胴体に突き立った。
キーッ!
怪物が棒立ちになって、ケインは怪物の体から弾き飛ばされた。その間にウータンがすばやく怪物の下から逃れ出た。
怪物は、人間たちの反撃に、戸惑っているようだった。ケインの槍が突き立ったところから、ドロドロした液体が流れ落ち、巨体を緑色に染めていた。怪物の動きが鈍くなった。それでも怪物は、獲物を前に、あきらめる気配はないようだ。
ウータンとケインは怪物と対峙して、身構えていた。ケインは武器を持っていなかった。あるのはウータンの持つ、サーベルが一本だけ。怪物が弱っているとはいえ、人間のほうが不利だった。
「ウータン、火だ。炎を飛ばせ」
ケインの言葉に、ウータンは左手を前に突き出し、意識を集中した。体全体からエネルギーが集まり、拳に充満してくる。彼は拳を開くと、いっきにエネルギーを開放した。
手のひらから炎が噴き出した。
炎は音を立てて怪物に襲いかかり、その巨体をおおいつくした。
キーッ!キーッ!
怪物は炎に包まれて、断末魔の悲鳴をあげた。体毛で覆われた体が燃えあがった。もが
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