(2)
ウータンはイジリの姿を目で追った。ユーミンが地面に倒れた老人を抱き起こしていた。
そのまま片手を老人の胸に当て、黙祷を捧げるように目を閉じていた。
治癒念力で老人を助けようとしているのだ。
老人の顔は色を失って、なかば開かれた目が、虚ろに空を見あげていた。その小さな体には、生命の兆候はかけらも残っていない。
ユーミンは蒼白な顔色をしていた。極度に精神を集中しすぎて、昏倒寸前にみえた。
「ユーミン、イジリは死んだんだよ。さあ、もう念力を使うのはやめろよ」
ウータンは彼にささやきかけた。
「いやだっ!爺は死んでいない!」
ユーミンは激しくかぶりを振って、精神を集中しつづけた。
「さあ、ユーミン」
ウータンはひざまずくと、彼の肩に手をかけた。
ふいにユーミンの体から力が抜けた。ウータンはあわてて抱きとめた。ユーミンは失神していた。
「ここは危険だ。いつまた、さっきのような怪物が襲ってくるかわからん。とりあえず、城のほうに行こう」
ケインは老人の亡骸を優しく抱きあげると、ウータンに言った。その目が涙で濡れていた。
彼らはイジリの亡骸を、城の中庭に1本だけ残っていたイチイ樫の根本に埋葬し、しばし黙祷した。
ユーミンは意識を回復していたが、極度の精神的な疲労で、顔色が青ざめている。
ケインが感慨深そうにつぶやいた。
「生きてるときは憎たらしい爺さんだったが、いざいなくなると寂しいもんだ。なんだか胸にぽっかりと穴が開いた感じだ」
「ああ――口うるさいけど、いい人だった」
ウータンがうなずいた。それから、ユーミンのほうをそっと見た。彼はまだ名残惜しそうに、イジリの墓の前にかがんでいた。
「たったひとりの身寄りでした」
ユーミンはささやくように言った。「15年間、ずっと一緒でした。お祈りをするのも、勉強をするのも、遊ぶのも――」
彼は、いとおしそうに墓の土をなでた。
「爺、安らかに眠っておくれ。わたくしは爺のことを忘れない。爺の教えたことも忘れない」
彼は目をギュッと閉じると、涙をぬぐった。それから立ちあがり、ふたりのほうに振り返った。「ごめんなさい。つい取り乱してしまいました。でも、もう大丈夫です。旅をつづけましょう」
ウータンは努めて明るく言った。
「ああ――きみは、ひとりぼっちじゃない。きみには、ぼくたちがついている。元気を出せよ」
ケインがつづいて言った。
「そうだ、ウータンの言う通りだ。それに爺さんは、天国からおまえを見守ってるぞ」
ユーミンはフッとほほえんだ。
「ありがとうございます。ふたりの言葉を聞いて、なんだか元気が出てきました」
「そうこなくっちゃあ。ところでこれからどうする?ユーミンは念力を使いすぎて疲れているようだから、少し休憩するか」
ウータンの言葉に、少し考えてケインが言った。
「せっかくここまで来たんだから、城の中を見ていくか。ユーミンの両親に関わるものが、何か見つかるかも知れん」
3人はアルメニア城の中に入った。
かつてここで生活していた人々の痕跡は、あまり残っていなかった。ところどころに端の欠けた、陶器の壷や皿が散乱していた。融けて固まった鉄の鎧らしきものが、炎の強烈さを物語っていた。
城の奥のほうに入るにつれ、被害の程度は軽くなっていた。壁や柱に飾られた金のレリーフや石の彫像が、往時の宮廷のようすを偲ばせた。
歳月が経っているのに、そういった貴金属が荒されていないのは、何か得体の知れないものの存在を思わせた。
彼らは大きな部屋に出た。
天井は見あげるほど高かった。天窓からの外光が、だだっ広い空間に、陽炎のように光の帯を投げかけている。広々とした大理石の床から階段が伸びて、その先に王座があった。ユーミンは階段をあがって、どっしりとした王座の背もたれに手を置いた。
「この椅子に、わたくしのおじいさまが座っていらしたんだ」
ユーミンはなつかしむように、椅子をなでた。
「えっ、なに?」
ふいにユーミンは、あたりを見まわした。
ウータンが訊いた。
「どうしたんだい、ユーミン?」
ユーミンは不思議そうに言った。
「わたくしを呼ぶ声が聞こえたんです。男の人の声でした」
「だって、ぼくには何も聞こえなかったよ」
「ほらっ、また――こんどは女の人の声」
彼はふらふらと歩き出した。
「ユーミン、どこに行くんだ?」
ウータンは面食らって、ユーミンのあとを追いかけた。
ケインが後ろから言った。
「ウータン、気をつけろ。物の怪のしわざかも知れん」
「ああ――」
ふたりの前で、ユーミンは廊下に出て、奥のほうに向かって歩き出した。小さな窓から射し込む外の光が、灯火のない廊下をぼんやりと浮かびあがらせていた。
王子は廊下の端にある階段をあがった。
ウータンとケインは彼の背後に寄り添い、油断なく周囲に目を配った。
上の階の大き
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