第4章 オーディンの玉
(1)
4人は光の塔を後にして、オーディンの玉を求める旅に出た。
ウータンの旅の第一目的は父を捜すことだったが、父と同じ目的、つまりオーディンの玉を探していれば、いずれは本人にたどり着くことになる。
イジリの話によれば、オーディンの玉はドラゴンが呑み込んだのではないかという。トマ王も同じことを言っていた。となると、とりあえずはドラゴンを探し出すのが先決問題だ。それについてもイジリは、光の塔に残る古い文献を調べていた。
ドラゴンについて記載されているのはわずかだった。ドラゴンは、アトラスの国からずっと北に行ったところの火の国に住んでいる。しかし、ドラゴンには50メートル以内に近づけない。ドラゴンの吐く炎は強烈で、50メートル伸びるからだという。
ケインが言った。
「じゃあ、ドラゴンを見つけても、何の手出しもできないということじゃないか」
「若いのは諦めが早い。それまでに、なにか方法を考えだすさ」
イジリが馬鹿にしたように言った。その老人にウータンが質問した。
「イジリ、アトラスの国はどこにあるの?」
「アラバ山脈を越えて、ずっと北の果てにある。この世界でもっとも古い歴史の国らしい」
「じゃあ、いったんトマの国に引き返さなくちゃならないな」
そこでユーミンが、言った。
「わたくしはその前に、アルメニア城を見ておきたい」
「だって、城に行ったって、だれもいないんだろう?」
「わかっています。でもわたくしは、自分の生まれた城をひと目見ておきたい。それに、祖父や両親が安らかに眠れるように、お祈りをしたいんです」
結局、一行はトマの国とは反対方向の、アルメニア城に立ち寄ることにした。
道中、宿はなかったので、野宿するしかなかった。
そして城に近づくにつれ、草木が少なくなってきた。あちこちで岩が風化して、細かい砂が堆積している。乾いた風が吹いて、砂塵が舞い上がった。
一向は沈み込んだ気持ちで、荒涼とした砂漠のような土地を歩きつづけた。
「以前は、花や緑であふれた美しい国じゃったのに」
イジリがポツリと言った。
じょじょに見えてきたアルメニアの町は、旅に疲れた人たちの気持ちを、ますます暗くするような光景だった。廃虚という形容がぴったりの有り様で、焼けただれた煉瓦壁だけが残っていた。
その背後には、アルメニア城がそびえ立っていた。こちらのほうは、尖塔やドーム屋根が残っていて、往年の威容を偲ばせた。
一行は町に入った。
生き物の気配はまったくなかった。屋根のない煉瓦壁のあいだを、風が吹きぬけ、土ぼこりがあがった。聞こえてくるのは風の音だけだった。
城に通じる大通りは、煉瓦の敷石がところどころ剥がれて、まだら模様になっていた。
煉瓦敷きの通りを歩いているとき、イジリがふいに足を止めた。
「気をつけろ。なにか近くにいるぞ」
微かに砂を這う音がした。
ウータンが叫んだ。
「左だっ!」
煉瓦壁の上から、巨大な甲殻質のしっぽが見えた。先端は鋭く尖っていた。やがて建物の陰から、怪物が姿をあらわした。
信じられないほど巨大なサソリだった。全身は鉄の鎧のような赤黒い皮で覆われていた。鉄仮面のような顔は、二本の牙が口の両端からニョキッと突き出ている。
サソリは、威嚇するようにしっぽを弓形に反らして、頭の上に高く振りあげた。
「気をつけろ。サソリの化け物だ」
イジリが叫んで、後ろに下がった。
「じじいはすっこんでろ」
ケインが老人を横に押しやって、前に出た。
イジリが揶揄した。
「ケッ、英雄ぶりおって。そのでかい口がいつまで続けられるかな」
ケインが言い返した。
「ふん、じじいこそ、怖くて小便をちびるなよ」
そこでウータンが叫んだ。
「ふたりとも、言い争いをしている場合じゃないぞ!」
ケインが槍を構えて、怪物の口めがけて槍を突き出した。
ガチン!
金属のぶつかる音がして、刃先が弾かれた。
ケインがうなり声をあげた。
「畜生!皮の鎧が固くて、歯が立たん」
「口ほどにもない奴だ。わしが替わる」
イジリが前に出て、右手を前にまっすぐ伸ばした。
指の先から稲妻が伸びた。
ギーッ!ギーッ!
怪物が歯ぎしりをするような悲鳴をあげた。青白い光の線が、網の目のように怪物の体を包み、あちこちで小さな光が弾けた。
「ふん、ざっとこんなもんだ」
イジリがケインのほうを向いて、胸を反らせた。
「バカッ、気をつけろ!」
ケインが叫んだ。
あっというまのできごとだった。怪物が前に進み出て、振りあげたしっぽが弓なりにグンと伸びた。
先端の鋭い針が、振り向いた老人の胸を刺し貫いた。
「ああっ!爺っ!」
ユーミンが悲鳴をあげた。
怪物は老人の体を突き刺したまま、しっぽを振りあげた。イジリの体が軽々と宙に持ちあげられた。しっぽの針が、老人の背中から突き出ていた
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