(6)破滅棒
天山たちが屋敷に戻ってきたとき、昌輔は床の上で胎児のように丸まっていた。よだれを垂らし、目は空ろで、かすかに尻をうねらせている。彼は天山たちの呼びかけにも、まるで言語を忘れたように、うなるだけだった。
昌輔が普通に会話できるようになったのは、3日が過ぎたころだった。
しかし、欠けているものがあった。以前だったら、いつもフツフツと沸き立つような精気を感じるのだが、それが全くなかったのだ。
昌輔の話を聞き、性器と直腸の細部まで診察した天山は、難しい顔つきで言った。
「おまえは『忘陽根』の術をかけられたのだ。それに『陰潤腔』にされている」
「なんですか、それは?」
「忘陽根は、精液が精嚢に溜まらないようにする、つまり男であることを忘れさせる術だ」
そこで天山は、昌輔の菊門にふたたび指を挿入した。体の芯に快感が渦巻いた。指が腸壁をまさぐり、抽送運動をした。
ああっ――。
指に貫かれたまま、昌輔は快感にあえいだ。
天山は指を引きぬき、昌輔の目の前にかざした。太い中指がしっとりと濡れていた。
「これが陰潤腔だ。おまえの直腸は、興奮すると愛液を出すようになっている。女が男を迎え入れるときのようにな」
人間の直腸は、異物が入ったとき、生理的反応として腸液を出す。腸の粘膜を保護する役割だ。また、排便をスムーズに行う潤滑剤の役目もある。普通はごく少量だが、昌輔の場合、なにかの作用で大量に分泌されるようになったのだ。
医学的知識のない昌輔は、天山の言葉にギョッとした。
(まさか、そんなことが――)
彼はあえぐように言った。
「でもぼくは、自分が男だと思っています。いまはその気になれませんが、そのうち性欲も元通りに蘇ってくると思います」
天山は頭を振った。
「かわいそうだが、それは無理だ。前にもおまえのように、忘陽根にされた男を知っているが、どんな治療も効き目がなかった」
昌輔は愕然とした。
(じゃあぼくは、永久に男の機能を失ったのか――)
色を失った昌輔の顔を見て、天山は考えながら言った。
「しかし、おまえは並み外れて精の強い男だ。治る見込みはあるかもしれん」
「お願いします、先生。一生、男に戻れないなんて、考えただけで気が狂いそうです」
必死になって訴える昌輔に対し、天山は平然と言った。
「おまえは労せずして陰潤腔を覚えている。かわりに、男を悦ばせることが出来るじゃないか」
「そんな――」
昌輔は、ぼう然とした。
天山が笑った。
「冗談だ。大丈夫、わしがなんとかしてやる」
そこで真顔になった。「おまえをそんな体にした男のことを、詳しく話してみろ」
昌輔は思い出しながら話した。
「歳はぼくと同じくらい、50前後だと思います。面長で彫りが深くて、すごい男前でした。とくに切れ長の目が、ゾクッとするほど妖艶で――。その目で見られると、金縛りにあったように体が動きませんでした。それに背が高く、筋肉質のスマートな体をしていました。それから、顔も体も浅黒い色をして、まるでインドか中近東の人のようでした」
「ほかに何か特徴はなかったか?」
昌輔は言いにくそうにもじもじした。それから思いきって言った。
「奇妙なチンポでした。筋肉の束が捩れたような格好をして、オイルをつけていないのに、じっとりと濡れていました。まるで皮膚から愛液が滲み出ているようで――。それから男が言っていました。ぼくのモノがその男より大きいので、ぼくを女にするって」
天山が、なかば予期していたようにうなずいた。そしてつぶやいた。
「やはり高城桂介だったか。こんなことが出来るのは、やつしかいない」
「あの男は、高城桂介というんですか。――師匠の世話になったと言っていましたが」
天山は不快げに顔をしかめた。
「わしの弟子だった男だ。とにかく性技に関しては、天才的だった。あれは、ウケをいっさいやらなかったが、タチに関しては、わしの知る限りの秘術をマスターして、それに独自の技を編み出した。おまえが目にしたように、自ら潤わせる『陽潤棒』もそのひとつだ」
昌輔が黙っていると、天山は話を続けた。
「しかし、性根は捻じ曲がった男だった――自分の持つ男根のようにな。あれは特異体質で、興奮するとマラが濡れてくる。いずれにしろ、あの男は人を不幸にする。だから、あれの性技は『破滅棒』だ」
「高城は――どこに住んでいるのですか?」
「知らない。風のうわさで、九州に移り住んだとも聞くが」
天山は考えながら話した。「お前は高城の陽潤棒で弄ばれて、陰潤腔を覚えた。おそらく、この世の中で陰潤腔の人間は、お前を含めほんの数人だろう。それはともかく、明日から男の機能を取り戻す試みをしてみよう」
「どうやって、取り戻すんですか?」
「なあに、特別の秘策はない。男の精気を吸収することだ」
そう言う天山は、心もとない表情を
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