(4)

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塔の内部は大きな空間になっていた。
天井はなく、塔の壁がそのまま上まで伸びていた。壁面には階段が螺旋状に登頂部までつづき、階段に沿って等間隔で壁を照らす灯火が、内部空間に幻想的な雰囲気をかもしだしていた。
入口とは反対側の奥に、灯火で囲まれた祭壇があった。その中央に、高さ2メートルほどの不思議な人物の彫像が立っている。塔の外壁と同じ材質で作られているようだ。ゆったりとギャザーをとった丈の長い服が、しなやかな肢体を包んでいる。あきらかに女性の像らしいが、顔立ちはのっぺりとして、頭は丸坊主で頭髪がなかった。それでいてその顔は、慈愛と神々しさにあふれている。
ウータンはその彫像を見ていて、頭部の額にうつろな穴が開いているのに気がついた。
「光の女神、イリスの像です」
ユーミンが教えてくれた。
部屋の中央部の床は丸く階段状に下がっていて、どっしりとした白い大理石のテーブルが置かれていた。そのまわりを囲む石のスツールには、毛皮が敷かれている。

ウータンとケインがテーブルについて、部屋のようすを眺めていると、ユーミンが飲み物を持ってきた。
甘酸っぱくさわやかな味がした。
「梨の実で作りました。どうです、気に入りましたか?」
ユーミンの問いに、ふたりはお代わりを催促するように杯をあげた。
「さて、落ち着いたところで、わしの話を聞いてもらおうかの」
イジリがゆったりと話しだした。「さきほど王子に聞いたが、おまえさんたちは、オーディンの玉を探しているそうだな」
ウータンが訂正した。
「正確に言えば違います。ぼくは父を探しているんです。そして、その父がオーディンの玉を探しているんです」
「同じようなもんだ。横からいちいち口出しするな!」
イジリがウータンを睨みつけた。「それで折り入って頼みがある。わしたちの手助けをしてくれ」
ウータンがきょとんとして老人を見、ケインがブスッとして言った。
「なんでおれたちが、ジジイを助けなくちゃならないんだ。おれたちに何の得があるって言うんだ?」
ケインとイジリがにらみ合った。
それをとりなすように、ユーミンが言った。
「爺、最初から説明しなさい。そうでないと、この方たちも理解できないでしょう」
「理解できないのは、もともとオツムが弱いからでしょう」
老人が言って、ふたたびケインとにらみ合った。

イジリはフンと顔をそむけると、ウータンに向かって話しだした。
「アルメニアの国は代々、光の塔を信仰してきた。この塔の最上部には天の玉座があって、そこにオーディンの玉が飾られていた。古くからの言い伝えによると、この宝玉には、世界の秩序を守る力があるという。
塔には常時、5人の神官たちがいて、オーディンの玉を守ると共に、イリスの女神にお祈りをしてきた。そして毎年1月1日には、国王自らが塔を訪れてお祈りをした。それは太古の時代からつづいた儀式だという。
ところが15年前、不幸なことが重なった――」
イジリは言いにくそうに、ユーミンのほうを見た。
「時の王は、あまり信仰心の厚い方ではなかった。その年の元旦、王は光の塔を訪れなかった。というのも、その前の年、皇太子ご夫妻に第一子がお生まれになったからじゃ」
老人はもう一度、ユーミンのほうを見た。
「そのお子がここにおられるユーミンさまじゃ。正確には、ユーミン・マルシア・アルメニアというお名前だ」
「ええっ!ということは、ユーミンはまだ16歳ってこと?」
ウータンが思わず驚きの声をあげると、イジリ老人がじろりと睨んだ。
「それがどうした。ユーミンさまは聖なるホーリー族のお方だ。おまえたちヒューマン族の常識など通用せんわ」

ウータンはトマ城の湯浴み場で、トマ王の体を触って、ホーリー族を知った時のことを思い浮かべた。
それでつい口に出した。
「じゃあ、ユーミンにも男を受け入れる割れ目があるの?」
「バカッ!」
ケインがウータンの頭をパチンと叩いた。「ちっとは言葉に気をつけろ」
ユーミンが恥ずかしそうに頬を染め、イジリが軽蔑したような表情を浮かべた。
「まったく、恥知らずの若造だ!」
イジリが吐き捨てるように言って、話を続けた。「その頃、わしはこの塔に仕えていたが、神官のなかにフヌギという若い男がいた。この男、わしのように小柄な体をしていたが、顔と性格はわしとまるで違う。その男は、キツネのようにずる賢くて――」
「じゃあ、爺さんとまったく同じだ」
ケインが横やりを入れた。
イジリはケインを無視して、話をつづけた。
「フヌギは、ここにいるだれかに似て、嫌味な性格をした男じゃった。よく他の神官とも諍いを起こした。要するに、フヌギはあまりにも世俗的すぎて、神官には向いていなかったのじゃ。
ある日、そのフヌギが塔から姿を消した。そして、イリスの像についていた太陽の石もなくなっていた
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