(3)

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「うわーっ!」
突然そばで聞こえた悲鳴に、ウータンは跳ね起きた。
池の縁に、きのう出会った男がいた。その背後には、小さな老人の姿がある。男は目を見開いて、ウータンの股間を見ていた。
「あれっ、あなたって、昨日あった人ですね」
ウータンは縁石からおりて、男のほうに歩み寄った。
男がイヤイヤして顔を左右に振りながら後ずさった。ウータンが怪訝そうな顔をしていると、老人が前に進み出て言った。
「そのみっともないものを早く隠せ。いやらしい、勃起させおって」
老人の言葉に、ウータンはうろたえた。自分が素っ裸で、しかも勃起しているのに気づいたのだ。最近、目覚めたとき、よく起こる現象だった。
あわてて後ろを向いて服を身につけていると、男がささやき声で老人に話しているのが聞こえてきた。
「爺、ヒューマン族は、あんな大きなおちんちんをしているのか?」
「あの男だけ特別でしょう。わたしのは、あんなに大きくない。あれはヒューマン族と言うより、アニマル族に近い」
そこで老人はウータンのほうに振り向いた。「それにしても、人前で素っ裸とは、なんて男だ。文明生活を送ってこなかったのか」
ウータンは、頭をかいた。
「ごめん、つい寝ぼけちゃって」
「寝ぼけるのは顔だけにしてもらいたいな」
老人がいやみを言った。

男が口を開いた。
「爺、からかうのはやめなさい。この方は悪い人ではない」
「王子、それはそうでしょう。この男はどう見ても、悪いことができそうなほど、賢い顔をしていない」
ウータンはエッという顔をして、男を見た。
「あなたは王子さまなんですか?」
「これ、無礼者」
老人が横から言った。「人にたずねるときは、自分から名乗るものじゃろう」
「あっ、ごめん。ぼくはウータン。トマの城下町からやって来ました」
「トマの城下町?えらく遠くから来たんだな」
「爺、おまえはすこし黙っていなさい」
王子がおしゃべりな老人をさえぎった。
「わたくしはユーミン。そして彼はイジリと申します」
彼は自己紹介すると、ウータンの顔を見てほほえんだ。
その無垢な笑顔を見て、ウータンは顔を赤らめた。王子というからには、ホーリー族なのだろう。それで不思議な容貌も納得がいった。そう思って見ると、やはりトマ王と共通の雰囲気がある。

そのとき始めて、王子の瞳が琥珀色なのに気付いた。その澄んだ瞳を見ていると、ウータンは胸の動悸を覚えた。
今日の王子は、真っ白の布を身にまとっていた。なめらかな布地をゆったりと着こなし、青色の腰帯が、太めのウエストにアクセントをつけている。
老人のほうは、王子よりなお背が低く、年齢が読みにくかった。60代とも70代ともとれる。渋茶色の小さな顔に、ナスビのような大きな鼻、灰色の瞳がいたずらっぽい輝きをみせていた。
「ところでおまえ、さっき裸だったが、まさかこの泉で泳いでいなかっただろうな?」
イジリがウータンに訊いた。そして、ウータンの返事を待たずに言った。「この泉は神聖なものじゃ。以前、ある男がこの泉で泳いだが、罰が当たって、大事なモノが抜け落ちたそうじゃ」
ウータンはギョッとした。そこで老人のニヤニヤ笑いを見て、からかわれたのに気づいた。この老人は、そうとうのいたずら好きのようだ。
(ケインが戻ってきたら面白くなるぞ)
ウータンは、内心にんまりした。

案の定、ケインは老人を前に、苦虫をかみつぶしたような顔をしている。
「それじゃ何かい、じいさん。おれは大男だから、そのぶん脳みそが小さいというのか?」
「おや、怒ったのかい。わしが言ってるのは、人間は平等にできているということだ。おまえのような大男には馬鹿力がある。そして、わしのような小さい男には、偉大なる精神の力があるってことだ。それにしても、この肉はうまい」
イジリは、焼いたウサギの足をかじりながら、満足そうに言った。ケインの獲ってきたウサギだ。
奇妙な葉をつけた木に生っていた、大きな果実もある。皮は固く、それを割ると、果汁をたっぷりと含んだ甘い果肉が入っている。それは老人に命じられて、ウータンが木によじ登って取ったものだ。
「それで、イビリのじいさん、おまえは何ができるんだ?」
ケインが聞いた。
「イビリじゃない。わしはイジリじゃ!」
老人はそういうと、無造作に人差し指をケインの腕に向けた。
「アツッ!」
ケインが左腕を押さえた。腕に疼痛を覚えたのだ。
「それがわしのできることじゃ」
老人が笑った。

ウータンは離れた所から、ふたりのやり取りを見ていた。彼はユーミンに聞いた。
「今のはなんですか?」
「爺の念力です」
「念力?――そういえばあなたも、ぼくの傷を治してくれた」
「爺が教えてくれました。でも、練習すれば誰でも出来るってものじゃありません」
(ぼくも少しできるんだ)
ウータンはそう言いた
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