(2)
「一体、何だったんだ、あの人物は?山の妖精か?」
ケインがつぶやいた。ウータンは首をかしげて言った。
「さあ、どうなんだろう。大人なのか子供なのか分からなかったけど。でも不思議な力を持っていたね。ぼくの腕の傷を、魔法のように治してくれたんだ」
ふたりは光の塔めざして、夜の道を歩きつづけた。夜空に浮かんだ月の光で、まわりの景色はくっきりと見えていた。
「それに、不思議な顔だったよ。男とも女ともつかない気品と優しさがあって、ヒューマン族じゃない雰囲気だった」
ウータンは思い出しながらつぶやいた。
それを横目に見て、ケインは言った。
「たしかに不思議な雰囲気だ。ま、とっちゃん坊やだな」
「なに、その、とっちゃん坊やって」
「知らないのか。子供っぽい風貌の親父を言うんだ。童顔で、背が低くて、ぽってりして――」
ケインは考え込んだ。「それに、あの初心な顔立ちは、男の情欲をかきたてる何かがある。ひょっとしたら――」
「なに、ケイン。何か知ってるの?」
ウータンの問いに、ケインは頭を振った。
「いや、なんでもない」
言ったあと、ケインはウータンの背中を叩いた。「おい、ウータン、気をつけろ。おまえは妖怪にとりつかれてるかも知れんぞ」
「からかうのはよしてくれ!ぼくは――」
言葉を中断して、ウータンは口をあんぐりと開けた。
目の前に、この世のものとは思えない、美しい光景が広がっていた。
中空にかかる月の下に、光り輝く白い塔がそびえ立っている。一度も見たことがない人間でも、その塔が光の塔だとすぐ分かるものだった。
塔の形そのものは、細長い円錐状をして、先端に王冠のような台座がついている。背景の紺青色の空と、白い塔が見事にマッチしていた。
塔の壁は、淡いピンク色をしたパールのように、見る角度によって、微妙にブルーや黄色に変化した。
塔の足もとは、長い間の風化によって、平坦な岩の台地になっている。
ふたりは言葉も忘れて、その美しい光景に見とれた。
「光の塔がこんなに美しいものとは――」
ふだんはあまり感情を表に出さないケインが、つぶやいた。
ウータンもぼう然としていた。
「そうだね。あんな美しいものを、だれが創ったんだろう?」
「おい、あれを見ろ」
ケインがわれに返って言った。「塔の根もとだ。あれはさっきの男じゃないか?」
ふたりは目を凝らして、塔の足もとを見た。
たしかにひとりの人間が台地を歩いて、塔のほうへまっすぐに向かっていた。着ている衣服や背の低い小太りの体付きから、さきほどの人物だとわかる。
ふたりが見守るなかで、その人物は塔に近づいた。
その姿がフッと消えた。
「おい、男が消えたぞ」
ケインが驚きの声をあげた。ウータンも目の錯覚かと思ったが、たしかに人物の姿はかき消えていた。
「塔の中に入ったのか?」
「わからない。とにかく塔まで行ってみようよ」
近くで見る塔の表面は、遠くで見たときのような輝きを失っていた。それでも、壁の材質は、なにか異質のものだった。手で触れてみると、かすかに暖かかった。
塔の中への入り口は見当たらなかった。ふたりは塔の周囲をまわり、岩の台地まで調べたが、開口部らしきものは発見できなかった。
「どうなってるんだ?入り口のない塔なんて、初めて見たぞ」
ケインが腕を組んで、苛立たしそうに言った。
「だけど、あの人は、この塔に入ったんだ。ぜったいどこかに、入り口があるはずだよ」
ウータンは、塔の壁に手を這わせながら言った。壁には刻み目ひとつなかった。
「しかし、ないものはないんだ。そろそろ、ねぐらを探して、野宿するぞ」
ケインがお手上げというように言った。
ふたりは疲れきっていた。山に入ってから、一度も休憩をとっていなかったのだ。
台地の周囲を見まわしていると、すこし下った所に、こんもりとした緑の茂みがあった。岩だらけの荒涼とした中で、円形の緑地は、奇妙な風景だった。
ふたりはそこまでたどり着くと、周囲を調べる気力もなくして、その場にくず折れるように横たわった。その数分後には、ふたりはぐっすりと寝入っていた。
翌朝、目を覚ましたふたりは、周囲の状況を調べた。彼らの眠った樹木の茂みは、オアシスのようなものだった。真ん中に岩で囲まれた泉があった。水は澄み切っていたが、底のほうは暗闇がどこまでもつづいていた。おそらく、すごく深いのだろう。
その泉をかこんで、奇妙な葉をつけた樹木が林立していた。高い位置にある葉の根もとには、大きな果実がぶら下がっている。
ウータンは水の誘惑に抗しきれなかった。
「ケイン、ちょっと泳がない?」
彼はケインを誘った。ケインは、よせよというように手を振った。
「朝っぱらから水浴びか。おれは何か食い物がないか探してくる。ウサギくらいは、いるだろう」
ケインは立ち去りかけて、つけ加えた。
「
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