第3章 光の塔

第3章 光の塔



(1)

ふたりは村長に別れを告げると、光の塔めざして旅立った。彼らのいる方角からは、アルメニア城より光の塔のほうが近かった。
アルメニアは国を治める王がいないので、無法地帯になっていた。
トマの国にくらべると、はるかに荒廃している。盗賊たちがはびこり、町や村では略奪がくりかえされていた。町の宿屋も安心して泊まれなかった。夜のあいだに、強盗が押しいってくることもあるからだ。
ウータンとケインも旅の途中で、何度か危険な目にあった。それを切り抜け、ふたりはひたすら光の塔に向かって歩きつづけた。

イギの峡谷近くの村を出て、半月ほどが過ぎ、ふたりはようやく光の塔のある山峡にさしかかった。
「いよいよ光の塔だね、ケイン。村長さんが言ってたけど、これからは気をつけないと、いつ狼たちが襲ってくるかわからないよ」
ウータンがそう言ったとたん、山の奥から、狼の遠吠えが聞こえてきた。
「ほら、言ったとたんだ」
ウータンはブルッと体を震わせると、左右をうかがいながら歩き出した。
道は石ころが転がって、歩きづらかった。それにまわりの風景は岩だらけで、大きな木は一本もない。遠くの山から月が顔を出して、荒涼とした山肌を照らしていた。あたりはひっそりとして、ふたりの歩く足音以外、まったく物音がしなかった。

ふいにケインが立ち止まった。
「来るぞ」
彼は静かにいうと、肩にかついだ荷物袋をおろして、槍を両手で持った。
岩山のうえから、黒い影が宙を飛んだ。
すかさずケインが、槍を横に払った。
ギャインッ!
槍の刃先で足を両断された狼が、地面でのたうった。
こんどはウータンの背後から、べつの狼が飛びついた。ウータンはかろうじて体をよけ、ふり返りざま小刀をふるった。腹を切り裂かれた狼が、断末魔のうめき声をあげた。
狼たちが岩陰から、ぞろぞろと姿をあらわした。彼らは獲物の思わぬ反撃に、慎重になっているようだ。
ウータンとケインは背中合わせになって、武器を構えた。それを狼たちが半円状に囲んだ。
「こいつら、並の狼じゃない。ウータン、気をつけろ」
ケインがささやいた。
たしかに狼たちは統制がとれていた。灰色の毛で覆われた体は、獰猛な力をみなぎらせ、それでいて鼻先の尖った顔は、みょうに知性を感じさせた。
狼たちは、ジリッジリッと輪を狭めてきた。その先頭にいたひときわ体の大きな狼が、奇妙なうなり声をあげた。
と同時に、左右にいた数匹の狼がふたりに飛びかかってきた。
ケインが狼を空中で串刺しにし、もう一匹の狼をまわしげりでなぎ払った。ウータンは背後に倒れながら、間一髪、狼の喉に小刀を突き刺した。もうすこしで、顔を食いちぎられるところだった。
「ウータン、大丈夫か?」
ケインが狼たちをにらみながら聞いた。
「ああ、今のところはね」
ウータンは起きあがりながら言った。
ふたたびボス狼がうなり声をあげ、数匹の狼が襲いかかった。ふたりはその攻撃をかろうじて食いとめたが、ウータンは右腕を狼の鋭い爪で引っ掻かれていた。
ウータンは腕の痛みをこらえて、短刀を左手に持ちかえた。
「こいつら、波状攻撃で、おれたちが疲れるのを待っているんだ。ウータン、炎でこいつらをおどしてやれ」
ケインの言葉に、ウータンは精神を集中した。

そのとき、狼たちのようすが変化した。攻撃の気配が消え、ほかの方向を見ている。
そちらを見て、ふたりは驚いた。
ひとりの男が、ひっそりと立っていたのだ。
背が低く、太めの体型。淡いブルーの服を着て、銀髪に青いバンダナをつけている。色が白く、男とも女とも判別できない童顔だが、どことなく高貴な雰囲気があった。それに、最初の印象は年配者に見えたが、よく見ると子供のようにも見える。
ウータンはふと、トマ王を若くしたら、こんな顔になるのではないかと思った。
子供とも大人ともつかない奇妙な人物は、ウータンたちの足もとに横たわる狼たちの死骸を見て、眉をひそめた。彼はふたりを無視して、死んだ狼たちに駆け寄った。太めの体型なのに、その動きは、まるでそよ風のように軽やかだった。
「かわいそう――みんな死んでいる」
一匹ずつ狼の死骸を確かめたあと、彼はつぶやくように言った。その間、ほかの狼たちはじっと立ち尽くして、彼のほうを見ていた。
ウータンとケインはあっけにとられて、不思議な男を見ていた。彼が現れてから、先ほどまでの死闘がうそのように、狼たちはおとなしいのだ。

「いったいどうなってるんだ?」
ケインがつぶやいた。
その声を聞きつけて、男が顔をあげた。色白のあどけないともいえる顔立ちだった。
彼は非難がましくふたりを見た。
「あなたたちの仕業ですね。なんて残酷なことを――」
「ちょっと待て。じゃあおれたちに、おとなしく狼どもに食われちまえというのか」
ケインが気色ばんだ
[3]次へ
[7]TOP [9]目次
[*]感想
まろやか投稿小説ぐれーと Ver2.35b