(4)
その男は目深に頭巾をかぶり、影のように町の路地裏を歩いていた。
路地裏は湿って薄暗く、町に住む人間でも、独りで歩くのをためらうような危険をはらんでいた。
やがて目的の家に達すると、男はドアのノッカーを一定のリズムで打った。ドアが開き、黒ひげの大男が来訪者を迎え入れた。男はすばやくまわりを見まわし、家の中に消えた。
男は部屋に入ると、頭巾を取った。トマ王の侍従長、アッサムだった。
アッサムは無言で大男にうなずきかけると、2階への階段をあがった。大男もそのあとに付き従った。
ふたりは廊下の突き当たりの部屋にはいった。
部屋の中には、トマ王がいた。
いや、よく見ると、トマ王とは微妙に違っていた。身長150センチそこそこのでっぷりと太った体型や、肌艶のよい丸っこい顔はトマ王そのものだが、青い瞳に冷たいものが潜んでいた。見ている相手に、ゾッとさせるような恐怖を与える冷たさだ。
「どうやら山賊どもは失敗したようだな、アッサム」
トマ王に似た老人が声をかけた。
アッサムは、ちょっと驚いた表情を見せたが、老人に向かってうやうやしく頭を下げた。
「もうご存知でしたか。おおせの通りでございます。ウータンとかいう小僧が邪魔だてしたそうです」
「ウータン?その小僧は何者だ?」
「勇者マリンの息子です。ウータンは、行方不明の父親を探して、旅に出ようとしていたところです」
「ふむ、どんな小僧だ?」
「年は18歳。武術の心得があるのか、引き締まった立派な体格をしています。王はウータンをえらく気に入られているようすです。そのうち、ご自分の跡継ぎにしようと言われるのではないでしょうか」
「ヒューマン族は王になれないが、しかし、あの王のことだ、万一ということもありうるな」
老人はすこし考えて、侍従長にいった。
「どうやら予定を早める必要がありそうだな」
そのあと老人は、アッサムに細々とした指示を与えだした。
――ヘンリー。ヘンリー――。
トマ王は自分の名前を呼ぶ声に、目を覚ました。ベッドから起きあがってまわりを見渡したが、だれの姿もなかった。
――ヘンリー。ヘンリー――。
彼の耳の中に、ふたたび声が聞こえてきた。
「何者じゃ!」
トマ王は叫んだ。その声が震えていた。
――アレクだ。わたしを助けてくれ――。
「アレク?弟か?どこにいる?」
部屋のすみに、ぼうっと小さな光が浮かびあがった。淡いピンク色をして、脈動しているように色の濃さが微妙に変化している。
王は魅せられたように、光の玉を見つめた。
光の玉はゆっくりと上下に揺れ、それからトマ王を誘うように、空中を浮遊して部屋から出ていった。
王は光を追って、フラフラと部屋を出た。
光は廊下の先へと漂っていた。
トマ王は光を追って、夢遊病者のような足取りで近づいた。光はすうっと下に消えた。突き当たりに、下につづく階段があった。これまでにはなかった通路だ。しかし頭脳の麻痺した王には、そのことの異常さも気づかなかった。
トマ王は光を追って、下に降りた。階段は延々と暗闇に向かって伸びていた。石の壁は湿っぽく、数メートルおきに灯火がともされている。
どこまで下に降りたかわからない。
トマ王は最下層のレベルに達した。目の前に鉄製の扉があった。王の見ている前で、その扉が開いた。王はふらふらと歩いて、部屋に入った。中は狭く、小さなベッドがひとつあるきりだった。
光の玉は消えていた。
そのとき王の背後で、鉄の扉がきしみながら閉まった。
――*――
翌朝、ウータンは謁見の間でトマ王に返事をした。
「王さま、あれからよく考えたのですが、ぼくはやはり父を探して旅に出ます」
「そうか。おまえがそう言うのなら仕方がない」
トマ王はあっさりと言った。ウータンは拍子抜けして、王の顔を見た。今日の王さまはどこか変わっていた。これといった変化はないのだが、どことなく様子が違うのだ。
ウータンはそっと思念を送ってみた。
とたん、まるで強烈な反撃を食ったように、彼の思念は弾き飛ばされた。
ウータンはギョッとしてトマ王を見た。
トマ王は平然と彼のほうを見て、たずねた。
「それで、どこに行くつもりだ?」
ウータンは気をとりなおして言った。
「――とりあえずは、アルメニアの国にある、光の塔に行ってみます。おそらく父も、そこに行ったと思いますから」
トマ王は、鷹揚にうなずいた。
「ウータン、旅は危険だ。気をつけるのだぞ。――そうだ、いい男がいる。ギリウスだ。彼をおまえの供につけてやる。旅支度を整えたら、部屋で待っていなさい。ギリウスをよこすから」
トマ王の前には、侍従長のアッサムと、裏町の家にいた黒髭の大男がいた。
「あの小僧、わしの心を読もうとした」
王の言葉に、アッサムが驚いたように顔をあげた。
「ウータンは念力が使えるのですか?」
「あ
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